112 / 119

【23】ー1

 夕方、ニュース配信された「薔薇企画新ブランドフェス」――コンペにはいつの間にかそんな名が付けられていた――の大賞作品の映像は、瞬く間にSNSで拡散され、日本中の人の目に触れることとなった。  ――とにかく、めっちゃ綺麗!  ――初恋の切なさを思い出した。  ――悲しいのに情熱的。泣きたいくらい誰かを愛したい。  ――深淵。最もやわらかく美しい場所にある記憶。  さまざまなコメントが、画像に添付されて広がっていった。  透明な下地にブルーと銀でデザインされたシリーズ商品は、特に薔薇の細工の細緻な美しさが話題になった。  ドーム型の照明器具は上部に零れるような薔薇の細工が嵌め込まれ、下部に光を透過し拡散するブルーの石が埋め込まれている。  灯りを点すと、夢のように美しい空間が器具の中に現れた。同時にきらきらと、木漏れ日や水際を思わせる光が室内を照らした。  大賞の発表直後から、どんなに高くてもいいから欲しいという問い合わせが薔薇企画に寄せられ、堂上はふだん以上に上機嫌になったという。  いくらかけても電話に出ない受賞者からのコメントは割愛された。 『捕まえたら馬車馬のように働かせるからね』  口調は軽いのに、内容が重すぎる伝言が留守番電話サービスに残され、インタビュー数本と新ブランドの商品企画のための予定がびっしり書き込まれたスケジュールが、パソコンのメール宛てに送られていた。  ラインには、井出から汀の安否を尋ねるメッセージが届いていて、これには丁寧な礼とともに、無事見つかった旨返信しておいた。    

ともだちにシェアしよう!