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 そして、五月――。  『ブルーローズ』がオープンし、光が大賞を取ったシリーズ作品「Under the Rose」が発売された。  それは瞬く間に売り切れてしまい、さすがの堂上をも驚嘆させた。 「すごい人気だね。あちこちでニュースになってるよ」  薔薇企画の本社に出向くと、いつにも増して機嫌のいい堂上に出迎えられる。  話題になった理由の一つは、堂上が付けた値段にもある。  思わず笑ってしまうほどの価格なのだ。桁を一つ間違えたのではないかと疑いたくなる。 『高すぎない?』  会議の席で光も意見を言ったのだが、堂上はただ見ていろと笑うばかりだった。  今もほくほく顔で笑っている。 「全然高くなかっただろう。あれにはそれだけの価値があるんだよ。人に欲しいと思わせれば、どんなに高くても買わせることができる。いい証明になったね」  これからもどんどん高額商品を売り出して、たくさん利益を上げようと堂上は張り切っている。  結局、清正をけしかけ、光の中の秘密の鍵を開けさせて、一番得をしたのは堂上だったのではないだろうか。  どこまでも抜け目のない男である。 「光、ここにいたのか」  ようやく一息吐いた連休の三日目、庭に出てスケッチをしていると、テラスドアから清正が顔を出した。  聡子が上京していて、少し前に汀と動物園に出かけていったところだ。 「暑いから、昼飯、素麺でいいか」 「うん」   庭は楽園の季節を迎えていた。  青いベンチの隣に清正が腰を下ろす。  花は歓喜に満ちて勢いよく咲き誇っている。それをいくつか写し取ったスケッチを、清正は眩しそうに見下ろした。 「光は、いつもここで絵を描いてたな」 「そうかも」 「あの日も、そうだった。スケッチブックを抱えて、うたた寝してた」  うん、と微笑んだ光を清正が抱き寄せる。 「薔薇の下には秘密があるのか?」 「うん。大事なものは秘密にしておくんだ。誰にも壊されないように」 「なるほど」  清正が光の手からスケッチブック取り、脇に置く。 「だったらこれも秘密だな」  そう言って、零れるアンジェラの下で光の唇を小さく啄んだ。                                                      ―了―  最後までお読みいただきありがとうございました。

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