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第2話

変わらない日常2 「今日も1日お疲れ様でした、雪夜さん」 「お前もな、お疲れさん」 仕事が終わって帰宅したオレは、恋人の帰りを待ちながら家事をする。オレの恋人、白石 雪夜(しらいし ゆきや)さんは子供たちのサッカーを指導するコーチとして働いているから。 雪夜さんの帰宅時間に合わせ、お風呂と夕飯の支度を済ませておいたオレに、雪夜さんは温かくて大きな手でオレの頭を優しく撫でてくれた。 オレは高校を卒業して、そして雪夜さんは大学を卒業して。同じタイミングでそれぞれ卒業を迎えたオレと雪夜さんは、3年間の交際期間を経て2人で暮らし始めて。 社会人になったオレと雪夜さんは桜が見える2LDKのマンションで、贅沢ではないけれど小さな幸せに包まれた暮らしをしているんだ。 「やっぱり星くんが作るメシが1番美味いな。ランのところで働き始めて料理のクオリティもすげぇー高くなったし、何より愛情を感じる」 「ありがとうございます。でも、オレなんてまだまだです。もっともっと勉強しなくちゃいけないことが沢山あるし、オレはランさんの足下にも及ばないので」 2人で囲む食卓。 お店の味というよりは、家庭の味の料理が並ぶテーブル。それでも、どの料理を食べても美味しいって言って笑ってくれる雪夜さんがオレは大好きで。 自分はまだ半人前だけれど、こうして恋人と2人でゆっくり食事が出来ることをオレはとっても嬉しく思ってしまう。 「焦る気持ちも分からんでもねぇーけどさ、お前はお前のペースで頑張ればいい。あの店には星くんが必要だ、1番そう思ってんのはランだと思うし」 箸を進める手が止まることのない雪夜さんだけれど、何気ない恋人からの一言が明日のオレを強くする。最初から全部が完璧な人はいないし、仕事で失敗することも悪いことじゃないんだって思えるのは雪夜さんが傍にいてくれるから。 だからオレはそんな雪夜さんの支えになりたくて、毎日を精一杯頑張ろうと思える。目の前にいる雪夜さんが明日も安心して仕事に行けるように、帰ってきたら安らぎの時間を得られるように。 その中にある愛情を感じとってくれる雪夜さんは、いつでもオレに労いと感謝の言葉を掛けてくれるんだ。 「ご馳走さん。洗い物は俺がするから、星くんはステラ可愛がってやってくれるか?」 残り物が何もない状態で綺麗に完食してくれた雪夜さんはオレにそう声を掛けて。オレと雪夜さんの大切な猫のぬいぐるみのステラを指差した後、雪夜さんはいくつかのお皿を持って立ち上がったから。 「じゃあ、お言葉に甘えちゃいますね」 オレは雪夜さんに言われた通りに、ソファーの上で寂しそうにしているステラをきゅっと抱き締める。ふわふわで触り心地のいいステラの頭をよしよしと撫でながら、オレはキッチンに立って洗い物をしている雪夜さんを眺めてみた。 結ばれた栗色の髪と、淡い色の瞳。 顔立ちは言うまでもなくとってもカッコイイ雪夜さんは、出逢った頃よりも大人な雰囲気が増していて。毎日顔を合わせているのに、オレは雪夜さんの容姿に毎度のように釘付けになってしまうんだ。

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