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気になる話 3
傷ついた心を引き摺りながら、帰宅した我が家。でも、オレを待っているのはステラだけで……オレは今日も独りで、雪夜さんの帰りを待つ。
待つことには、馴れたつもり。
独りの寂しさを紛らわすことは小さい頃から得意だと思うし、待っている時間で出来ることは沢山ある。
例えば、家事をすること。
ご飯の支度や洗濯物をたたむことで、独りの時間は感覚的に短く感じる。
それから、明日の仕事の用意をすること。
毎日同じことの繰り返しだけれど、これも今やっておけば朝になって慌てずに済む。
あとは、自分の好きなことをする時間。
雪夜さんと一緒にやっているアプリゲームのクエストをソロで回ったり、好きな音楽を聴いたり。
そうして。
そうして、時間が過ぎても帰ってこない雪夜さんのことをオレはひたすら待ち続けていて。
「……やること、なくなっちゃった」
沢山あると思っていたやることは、オレが思っていた以上に少なかった。やるべきこと、やらなければならないことはそう多くないなんだって……やらなきゃならないことではない趣味も、気分が乗らなきゃ楽しくなくて。
簡単に潰せると思っていた時間は、潰れることなく緩やかに時を刻むだけだった。
広い部屋でステラと2人、やることがなくなったオレはソファーに転がり大きな溜め息を吐く。
程よい疲れを感じている体は、横になれたことでリラックスしていくけれど。精神的にも疲れを感じている今のオレは、体の疲れを癒すために寝付くことができそうになかった。
寝ちゃえば何も考えなくていいのに、時間だって勝手に過ぎていくのに。瞳を閉じてもそれが出来なくて、右を向いても左を向いても頭の中に浮かぶのは今日のお客様のことと雪夜さんのことばかり。
オレを煌々と照らす部屋の電気をボーッと見つめて、そのうちに目が霞んできて瞬きをして。ライトから視線を逸らしてみても、丸い電気の陰影が瞳の奥に残ったまま消えないのが可笑しく思えたりして。
今日がいつもよりずっと寂しくて心細く感じてしまうのは、きっとあのお客様の所為だって思ったりしたんだ。
オレもあの女性のお客様のように、雪夜さんに当たり散らして泣き喚いたことがある。あの時は、本当に自分が産まれてこなきゃ良かったって……兄ちゃんのことや名付けの由来を聞いて、自分の言動を感情に任せてしまったけれど。
あの女性のお客様にも、感情に任せるしか方法がないくらいに追い詰められる出来事があったのかもしれないって。そんなことを考えると、ランさんが言っていたように男性が被害者だと決めつけることはできなくて。
他人事なのに、オレには全く関係のないことなのに。それでも頭の中に浮かぶ一瞬の惨事が、オレの心を縛りつけてしまうから。
「ねぇ、ステラ……どうして、オレは関係ないのにこんなに悲しいんだろう。どうして、こんなに寂しいんだろう」
分からない答えを、オレは抱き締めているステラに訊ねてみたけれど。当然のことながらステラからの返事はなく、代わりに訪れたのは更なる寂しさだけだった。
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