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気になる話 4
ソファーに横になっていても寝付くことができないし、ステラは返事をしてくれないし。オレは徐ろに起き上がると、部屋のカーテンを開けて外を見る。
闇のような暗い空には、歪んだ月明かりがぼんやりと漂って。見なきゃ良かったと後悔しても、それはもう遅かった。
切さながつのるこんな時、優しく抱きしめてくれる雪夜さんの存在がとてつもなく恋しくなる。けれど、オレには待つ以外の術なんてないから。
雪夜さんから連絡がきてないかどうか気になって、オレは頼りない月明かりを見ることを止め、テーブルに置いてある自分のスマホを手に取った。
「まだかなぁ、雪夜さん」
独りで家にいると、なんだか独り言が多くなってしまう。ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ期待して見てみたスマホには、雪夜さんからの連絡がないままで。
手に取ったばかりのスマホを再びテーブルの上に置き直し、オレは体内時計で60秒を計ってみたり、返事をしないステラを使ってへんてこりんなダンスを踊らせてみたりする。
「ゆーきーやぁ、さん、大好きーぃ、です、よぉー」
こんな姿、誰にも見せられないと思う。
思うけれど、今は誰もいないから……オリジナルの意味不明な音に乗せて、ステラの腕を掴んでオレはフリフリと上下左右に動かしていた。
すると。
「……ぅ、えっ!?」
今まで全く鳴らなかったスマホが、音を立てて鳴り響いて。オレの心臓はびっくりして跳ねてしまうし、おまけによく分からない変な声まで出てしまったんだ。
独りで可笑しな行動をとっていたこともあるし、オレに連絡してきているのは雪夜さんだって保証もないし……とりあえず平常心を繕うことを最優先しながら、オレはスマホの通話ボタンをタップした。
『青月くん、今大丈夫かな?』
「……あ、西野君。うん、大丈夫だよ」
本当はあんまり大丈夫じゃないけれど、そんなことを西野君には言えなくて。
内心、雪夜さんからの連絡が良かったなって思っている心を西野君には気づかれないように、オレは電話越しでひとりアタフタするけれど。
『仕事で疲れてる時にごめんね……あと、この間はありがとう。急に職場に訪ねちゃったのに、あんなに良くしてもらえて嬉しかった』
「ううん、こちらこそ。2人の顔が見れて良かったし、ランさんも楽しそうにしてたから大丈夫。それより、西野君の方こそ大丈夫?」
独りの時間を持て余し過ぎて、寂しさを抱え過ぎて。脳内が可笑しな方へ行きかけていたオレを引き止めてくれた西野君に、オレはそう問いかけていた。
『大丈夫って、言いたいんだけどね……実はあんまり大丈夫じゃないから、青月くんに電話したの。ちょっと長くなっちゃうかもしれないけど、話聞いてくれる?』
西野君の声に元気がないのと、今にも泣き出してしまいそうな弱々しい雰囲気が電話越しでも伝わってくる。オレも今は大丈夫じゃない人だけれど、西野君よりは大丈夫な気がしたオレは西野君の話を聞くことにして。
「もちろん、オレで良ければ話聞くよ。どうしたの?弘樹とケンカでもした?」
そう訊ねたオレの言葉に、西野君からの返事は数秒の間ないままだった。
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