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気になる話 5
「あれ……あの、もしもし?」
スマホから全く音が聴こえてこないことが心配になり、電波が悪くて切れてしまったのかなと思ったオレは、西野君に声を掛けるけれど。
『あぁ、ごめんね、聴こえてる。もしかして、弘樹くんからもう話聞いてたりする?』
通話は切れていなかったようで、西野君からオレは逆に聞き返されてしまった。
でも、何の話か分からない状態で弘樹から話を聞いているのかと言われても、思い当たる節がないオレは正直に答えることしかできなくて。
「ううん、弘樹からは何も聞いてない。なんとなくオレの勘で、弘樹とケンカでもしたのかなって思っただけだから」
『そっか。じゃあ弘樹くんは、まだ青月くんに話してないんだね……僕、弘樹くんと大喧嘩しちゃった』
……あぁ、やっぱり。
冗談が半分、嫌な勘が半分。
オレの中ではそんな割合だった話が、冗談なんかじゃない本当の出来事に変わっていく。
悪い予感の勘が冴えても、なんにも嬉しくない。けれど、今の西野君にそんなオレの思いを伝えても無意味だから。
「ケンカの原因、聞いても大丈夫かな?」
なるべく西野君の心の傷を抉らないよう、気を遣いながらそう言ったオレは、スマホを耳と肩に挟んでキッチンに向かった。
引き戸を開けてお気に入りのチョコレートを取り出し、冷蔵庫の中のミルクをマグカップに注いで。西野君の話を聞く体制を整えつつ、オレは西野君が話し出すのを待ちながらもソファーに腰掛ける。
すると。
『弘樹くんがね、浮気してたの』
……弘樹が、浮気?
電話越しで呟かれた言葉に耳を疑ったオレは、手に持っていたマグカップを落としそうになって。マグカップは咄嗟にテーブルの上に置くことができたからなんとかなったけれど、肩に挟んでいたスマホはラグの上に転げ落ちてしまったんだ。
自分のことじゃないけれど、動揺が隠せない。
でも、まずはスマホを拾って西野君の話を聞かなくちゃって……そんな思いで必死になったオレは、さっきまで感じていた心細さなんかどうでもよくなっていた。
「ごめんっ、びっくりしてスマホ落としちゃった……弘樹が浮気してるって、どうして分かったの?誤解とかじゃない、んだよね?」
『誤解じゃないよ、なんなら青月くんに証拠写真送ろうか?弘樹くんは身に覚えがないって言ってるんだけどさ、裸の女とホテルらしき場所で写真撮ってるなんて浮気以外に何があるの?』
「……え、ナニ、それ」
この間お店に来てくれた時は、2人ともとっても仲良さそうにしてたのに。弘樹だって、西野君と幸せオーラ全開でイチャついていたのに。
単純バカで正直者の弘樹が、オレの親友の弘樹が……西野君の言っているようなことをするなんて、オレには思えない。
あまりにも生々しい話に、耳を塞ぎたくなる。
何がどうなってるのか、どのようにして写真が撮られて、どんな状況で浮気が発覚したのか。色々と謎な面が多いけれど、とりあえずオレが言えることは1つだった。
『弘樹は、弘樹はそんなことしないっ!!』
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