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気になる話 17
「釣りだ、受け取れ」
「……少な。渡した金をギリギリまで使う頭はあんのに、身支度整える頭はねぇーんだな」
トレーにコーヒー1杯だけの俺と、ソーセージのモーニングセットと単品のサンドウィッチを買い込んできたらしい康介。
返ってきた釣り銭は、一円玉4枚。
ドリンク価格でモーニングが楽しめるはずのこの店で、よくもまぁこれだけ使い込めたものだ。
俺に礼を言うわけでもなければ、丁寧に両手を合わせることもせずに康介は食事を進めていくけれど。
「お前に脅されてなきゃ、んぐ……っ、もうちょいマシな服で来きてる。んなことより、急に連絡してきてどうしたんだよ?」
「その前に礼を言え、礼を。ついでに食事の前の挨拶もしろ、お前は本当にモラルがなってねぇーんだから」
口の中に物が入っている間は極力喋るなと、大半の人間が幼い頃に教育されているはずなんだが。食べ方のマナーがなってない康介に、俺はただただ呆れるばかりで。
「あー、まさか白石さ、俺に会いたくて会いたくて震えちゃったりした?」
人がせっかく注意してやったのに、康介は聞く耳を持たずにニヤけるばかりだった。
俺はどうやってこんなヤツと4年もの間、学生生活を共にしてきたのだろうと。そんなことを考えてしまうくらいに、康介の姿は酷いけれど。
「……バカも大概にしとけや、お前を呼び出したのは大学のサークルのことを聞くためだ。お前さ、松浦愛奈ってヤツ知ってるか?」
バカの無駄話に合わせていたら、俺は出勤時間に間に合わない。そう思った俺は、煙草に火を点けながら康介に問い掛けたのに。
康介はキョトンとした顔のまま動くことがなく、4年間サークル活動していた康介でも心当たりがある名前じゃないのかと俺が諦めかけた時。
「……知ってるも何も、お前が喰った女だろ?」
「は?」
今度は俺が、康介の言葉を聞いてフリーズした。
「覚えてねぇのかよ、白石。お前が子猫ちゃんと付き合う前に、白石とヤッた女だぜ?」
……まさかの、まさかだ。
「嘘つくならもっとマシな嘘をつけ、バカ」
星と付き合う前に、俺が抱いた女……とは何があっても思いたくない俺は、小さな動揺を隠し康介を睨みつけるけれど。
「嘘じゃねぇって。お前にヤり捨てられた後、人が変わったようにメイクとかも派手になってさ。サークル中じゃ、1年狩りの愛ちんで有名な女だ」
真実だと言わんばかりに、康介はペラペラと話し出していくが。なんとも受け入れ難い話に、俺の思考は勝手に停止しようとしていた。
「男はロデオ感覚、酒を飲ませるだけ飲ませて上に跨がればどんな男でも簡単にヤれるって豪語してた女が愛奈だけど……俺はな、俺は愛ちんの馬になれなかったんだッ!!」
俺が無言で煙草を咥えている間も康介は女とセックスできなかったことを悔やんでいるらしく、キャンキャンと吠えて騒がしいから。
「お前の話なんざどうでもいいんだよ。この際、俺が抱いた女ってこともどうでもいいことにすっけど……そんなヤツ抱いた覚えねぇーし、もし仮にヤッてたとしても時効だ、俺は無実だ」
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