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気になる話 21
朝から康介を呼び出し話をした所為か、もしくは最近の疲れが溜まってきているのか……原因はよく分からないが、今日の仕事はいつも以上に体力を消耗している気がする。
「イッシー、ボールそっちいったッ!!」
それでも、幼児クラスのおチビさん達とサッカーをするのは単純に面白い。
ミニゲームと呼ばれる試合方式の練習……の、はずなんだが。ルールも何もあったもんじゃない幼児クラスのミニゲームは、勝ち負けよりも技術よりも、何よりもサッカーを楽しむことを目的としている。
誰もがボールに触れていたくて、みんながみんなFW。そんな幼児クラスのチビっ子の中に混ざり、俺が今している仕事は3回に1回の割合でボールを止めるGKで。
しっかりと敵と味方の判断がついている1人のチビっ子から、味方チームのGKの俺に的確な指示が飛んできたから。
「……惜しいな、キーパーの正面にシュートしても止められちまうぞ?」
コロコロと転がってきたボールを手に取り、シュートを打った敵チームのチビっ子に俺はそう言ってやる。すると、そのチビっ子は少し考えてから俺に人差し指を向けてきて。
「イッシーはゴールの隅っこに立ってて、次は絶対決めるからっ!」
気合い充分で言い放ち、そうしてまたすぐにピッチの中を駆け回り出したけれど。
……動かずにゴールの隅にいるGKなんていねぇーよ、アホか。
なんて思ってしまう発言に、俺は笑いを堪えて子供達を見守ることにした。
俺がゴールの正面に立っていて、尚且つ俺の正面にシュートをしたら止められて当然。しかし、まだ小さな頭を一生懸命に使ってシュートコースを考え出したチビっ子は、俺がゴールの隅っこにいれば逆サイドを狙ってシュートを打てると思ったのだろう。
GKがいる位置と反対の隅を狙うという考えはいい判断だと思うし、それを自分の力で考えることができたチビっ子はまた1つ成長したと思う。
上手い下手は関係なく、子供たち一人一人が楽しんでボールを蹴る姿を見ていると俺まで自然と笑顔になれる。
ルールをガン無視して味方のチームメイトからボールを奪いシュートする子、ただガムシャラにピッチを走り回る子、転んでもすぐに立ち上がりボールを追いかける子。
能力や技術に個人差はあるが、どの子もサッカーが好きで、楽しいと感じていることがよく分かる良い表情をしていた。
1時間30分程度のトレーニングだが、その間にある休憩時間は水分補給のみ。15分に1回、水分補給の時間は設けているけれど、90分のトレーニングをほぼノンストップで行なう子供達は不思議なことに疲れた顔1つ見せないから。
トレーニングの終了時間がなければ、チビっ子達が疲れ切るまで、そして好きなだけボールを蹴らせてやりたいが。
W杯でも、Jリーグでも、公式戦でも、練習試合でも……ゲームには終わりがあることを俺は子供達に教えてやらなきゃいけなくて。
そろそろ10分間のミニゲームが終了すると思い腕時計を見た俺は、名残惜しく試合終了のホイッスルを鳴らした。
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