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探偵ごっこ 12

兄貴に連れられこの店に通うようになった俺だが、飛鳥とランの関係性を深く知ろうと思ったことは今までになかった。 けれど。 ランの対応を見る限り、飛鳥の裏を少なからず知っているランはそのまま言葉を続けていく。 「貴方の場合は、まだ成長途中でいくらでも修正が可能だったけれど、飛鳥はそうじゃなかったのよ。あの男はね、それを自分で痛いほど理解しているの」 ランと出逢ったときの兄貴はもう既に、クズでクソな野郎だったのだと。大きな溜め息とともに、零されたランの発言。 「だからせめて、夢を諦めざるを得なかった雪夜が道を踏み外すことがないようにって……飛鳥の目の届く範囲内にいる私に、あの男は貴方を託したのよ」 「じゃあ、俺が初めてこの店に来たときお前が俺を口説いたのも、元は兄貴の入れ知恵ってコトか?」 「そうなるわね……けど、今は雪夜を託してもらえたことに感謝しているわ。雪夜がいなかったら、私の夢が運ばれてくることもなかったでしょうし」 ランと飛鳥の間で隠されていた秘め事は、今だから俺に明かされた内容なのだろう。 兄貴が背負った後悔の影は、こんなところにまで伸びていたんだと……飛鳥の想いを知り、俺を構い続けているランには感謝しかないけれど。 「お前の夢を叶えるためにも、早く星くん取り戻してぇーんだけどなぁ……アイツいないと死にそ、マジで」 カウンターに突っ伏し、ジワジワとやって来ている睡魔と戦って。瞳を閉じた俺は、このまま眠ってしまおうかと頭の隅で思考する。 「……雪夜、ちゃんと食べなきゃダメよ」 「ソレ、兄貴にも同じこと言われたばっかだ」 「貴方の潔白が証明できたのなら、もういつでも星ちゃんを迎えに来れるじゃない?何をそんなに項垂れることがあるのよ?」 「俺、3日後から短期出張入ったからそれ終わるまでは無理だ。それに、どうせなら綺麗さっぱり制裁したいし」 星には会いたい、出来れば今すぐにでも。 ただ、こんな中途半端な状態で迎えに行くことはできない。俺が父親でないことは分かったけれど、このままじゃダメだと思うから。 俺が過去と向き合うために、これからの人生を二人で生きていくために……星が俺に与えてくれた時間を、無駄にしたくない。 「とりあえず、星の母親には俺から全ての事情を話してある……けど、子供たちの嘘に騙されてくれるらしいから、アイツらには何も言わなくていい」 星を支えるランには伝えておくべきだと思い、口止めの役割わりを同時に担う内容を俺はオカマに告げた。 「まったく、雪夜らしいわね。先手を打って根回ししてあるのなら、貴方は仕事のことを考えなさい。星ちゃんのことは、私に任せて……それと、飛鳥のことも」 目先の出張だけを気にしていられないものの、俺が独りで悩んだところでこの問題は手詰まりだ。それならば、問題の全てを飛鳥に押しつけ、俺は仕事に集中している方が何百倍もいいのだろう。 「貴方が出張でこの地を留守にするタイミングを狙って、飛鳥が来店するはずよ。あの男が、今でもどうしようもない人間なら、だけどね」 「もう無理、俺にはよく分かんねぇーよ」 考えることを放棄すれば、楽になれるハズなのに。突っ伏したままのカウンターで瞳を閉じてみても、拭い去れない飛鳥の陰影は瞼の裏に残ったままだった。

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