169 / 170
探偵ごっこ 11
「まぁ、ランの言う通りなんだけど……なんつーか、全部兄貴のせいなのに憎めねぇーんだよ。隣に星がいないこんな状況なのにさ、気持ちが追いつかねぇーっつーか」
疑いが晴れ、安堵しているからなのか。
脱力感丸出しでも問題のないランの前では、スラスラと本音が出てしまう。
「飛鳥の自業自得だと言いたいところだけど、雪夜がそう感じているのは、裏があるからなのかもしれないわね」
「やっぱ、お前もそう思う?」
咥えた煙草の先端にジッポの火を移し、ゆったりと呼吸した俺はランを見る。
「飛鳥は不真面目を繕うのが上手い男だから、もしかしたらわけがあって……過去に、身を引いているのかもしれないわ」
茉央の存在が、兄貴にかなりの影響を与えているのは確かだ。ただ、成那のことに関しては先輩後輩以外の話は出てこなかった。
「飛雅の書類上の父親は、兄貴の先輩らしいんだけど……俺、兄貴があんなにキレイな顔して笑う姿初めて見たんだよ」
飛鳥の過去には、俺が触れてはならない何かがある。それを分からせるには充分過ぎるほどの兄貴の表情に、悔しいけれど魅せられた俺がいる。
知りたくはないのに、深みにハマるような感覚。弟の俺でさえ、あの一瞬でそれを体現させられたのだから、竜崎さんが飛鳥から逃れられないのは当然だと思った。
見縊るな、と。
そう言った兄貴の言葉はおそらく、飛鳥ではなく竜崎さんのこと指していた。俺が最後まで躊躇ったことを鼻で笑い飛ばし、意図も容易く結果へと導いた飛鳥。
ある程度の歳になったからこそ、醸し出される大人の風格。どこから出てくるのか分からないアホみたいな自信も、それを裏付けるような余裕のある言動も。駆け引きの上手さだけで見ても、飛鳥の右に出るヤツを俺は未だに知らないから。
「今回の飛雅の件、たぶん飛鳥が全てを背負うと思う。俺には星のことだけ考えろって、首突っ込むなって兄貴に言われた」
俺は飛鳥を誘き寄せるための道具として、茉央に使われただけだ。そこに裏があることは分かっていても、今の俺に飛鳥が過去を語ることはないだろう。
飛雅のことを思うと、気の毒で仕方ないが……竜崎さんの言う通り、俺たちコーチが口を出せる問題ではないことを思い知った夜だった。
「良し悪しは別として……みんなそれぞれ過去はあるものよ、飛鳥だって例外じゃないわ」
ランの言葉の意味は、言われずとも理解はしている。だが、無駄に勘ぐってしまいたくなるのは、俺が飛雅の指導に当たっているからなんだろう。
「……兄貴、どうするつもりでいんだろうな」
自分のことを考えなければならないのに、頭に浮かぶのは飛鳥の姿だ。まだ、腑に落ちていない感情が整理できていない俺は、ランに問い掛けてしまうけれど。
「さあね、私にも飛鳥は手に負えないから考えるだけ無駄よ」
珍しく、ランが思考すること拒んだ。
その理由を知りたくて、俺は口を開いていく。
「けど、俺よりランの方が兄貴のことよく知ってんだろ?」
「よく知っているからこそ、お手上げなの……飛鳥がこの店に初めて訪れた時にはもう既に、あのどうしようもない人格が形成されていた後だったから」
ともだちにシェアしよう!

