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【3】01

「今度の連休実家帰ろうと思って」 向かい合い夕飯を食べながら、耳にした言葉は唐突だった。出掛ける用事はおろか、少し帰りが遅くなるときでさえ何日も前からあらかじめ告知をする高岡さんだから、その提案はおそらく数日中に思い立ったものなのだろう。 「あ、そうなんですか」 「んー……まあ、最近ぜんぜん帰ってなかったしな……」 「そういや俺もだなー。俺ら二人ともあんま実家帰んないタイプですよね」 「んー……」 「俺んとこは放任っつーか、母さんも結構てきとーな人なんで、実家帰ろうかなーって言ってもダレダレサンと旅行いく約束あるから別の時にしてとか言われちゃうんですよ、高岡さんちもそんな感じですか?」 「あー……、まあ……、うん、そんな感じ」 「……高岡さん家族と仲良いですか?」 「んー……、そこそこ」 高岡さんは無表情で椀の中を見つめながら、白米を口に運んでいた。もしかしたらその質問は不躾だったかもしれない。高岡さんが家族の話をする時いつもすこしうつむくのを、俺は知っていた。 「……俺んちの実家って車で細い道どんどん入っていくようなほんと山ん中なんだけど」 「はい」 「帰る時、一緒に来てくれない?」 「えっ」 思わず間抜けな声を出してしまった。高岡さんはなおも淡々と肉や野菜を口に運んでいる。 「え、お、俺?」 「うん、伊勢ちゃん」 「俺が、どういう顔してついていけばいいんですか……?」 「ふつーでいいよ」 「ふつーってどんなんですか……」 「ふつーに、『ふつつかものですがよろしくお願いしますー』、って」 「いや全然普通じゃないでしょそれ!」 もしかしたら、ふらりと遊びにまで来てしまった馴れ馴れしい友人といった装いで差し当たりのない挨拶をすればいいのかもしれない。しかしあくまで相手は恋人の親御さんで、まったく緊張しないと言えば嘘になるし、そもそもどういう身分としてどんな話をすればいいのかも分からない。いやそもそも急に男に挨拶されたってびっくりするだろうしやっぱり友人として後輩として行くべきだろう、でもなんとなく嘘をついているようにもなってしまうしそれもいやだし。 考えれば考えるほど、家族に会うというのはあまりにもハードルの高い行為で自信がなくなる。 「いっ、いや、俺それはやっぱ」 「行きたくない?」 「行きたくないって訳じゃないですけどさすがに急すぎるし、あ、そういや俺連休はバイト入ってるし……」 「それ誰かに代わってもらえることできないかな?」 「え?」 顔を上げると、高岡さんは箸を動かしながらも深刻な表情をしていた。高岡さんは重い感情を胸に秘めているとき、口の端が強張る。俺はそれを見ると、いつもの強気で当たることができなくなるのだった。 「お願いだから、どうしても一緒に来てほしい」 淡々と箸を動かしながら高岡さんは重要な種を隠して意志を貫く。俺は食事を終えるとバイト先の友人に電話をかけ、連休中の出勤を代わってもらうことにした。

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