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第14話予期せぬ捕虜
強がり……ではないと思う。ビクトルは敢えて己が切り込んでいき、仲間が傷つかぬように動いていた。
それを素直に評するのは気分が悪い。俺はビクトルの自負を聞き流し、冷えた目で睨みつける。
「いったい何用だ? こんな非常識な時間に騒ぐくらいだ。よほどの用事があるのだろうな」
「本当に吸血鬼の王を捕らえたのか、この目で確かめたかったんだ。それと、少しでも従順になってもらうために、これを見せておいたほうがいいと思ってな」
ビクトルが横を向き、顎をしゃくって誰かに指示を出す。どうやら部屋の外に誰かいるらしい。
ささやかで軽い足音がゆっくりと聞こえてくる。
子供か?……嫌な予感がする。
背筋をざわつかせながら様子をうかがっていると、小さな姿が扉の陰から飛び出てきた。
大柄なビクトルの胸元までしかない背丈。
わずかに白緑が入った、肩で切り揃えられた真っすぐな髪。
先が尖った耳に、大きな紅玉の瞳。心細そうに顔をしかめても整った愛らしい顔立ち。
初見ならば女子と見間違うだろうが彼は男だ。よく知った相手。だからこそ、その手首に俺と同じく封印の輝石を散りばめた紐で縛られ、無力と化した彼に驚きを隠せない。
俺と目が合った途端、彼の瞳が潤んだ。
「カナイ様、ごめんなさい……」
小さな肩を震わせながら、か弱く謝罪する彼の肩をビクトルが荒々しく抱き寄せる。
そして不敵な笑みを浮かべ、俺の怒りを煽った。
「お前の後に捕まえた魔の者だ。名前はクク……よく知った顔だろ? お前が必死になって守ろうとしていた魔の者の子。もしお前が俺たちに従わなければ、コイツを好きにさせてもらう」
「……やめろ。罰を与えるなら俺にしろ。成人していない魔の者は、簡単な術でも傷ついて命を落とす。子供を巻き込むな!」
鋭く睨んで俺が怒鳴ると、ビクトルは表情を変えずにこちらへ顔を近づける。
「魔の者は魔の者だろ。大人も子供もない。まあお前さえ従順であり続けるなら、コイツに手を出すこともないがな。俺たちに逆らうことは、絶対に許さな──」
「そこまでです。捕虜を使って脅さずとも、私の力で彼は従順でいてくれます。むしろ捕虜は無用な反発を与えるだけ……いっそ解放して欲しいものですね」
俺を守るようにミカルが割って入ってくる。随分と自信過剰で思い込みが激しいことを言っている気はするが、ククを解放をしてくれるというなら本当にありがたい。
ミカルは退魔師協会の中でも一番の強さを誇る有力者。
だがビクトルは怯むことなく、大きく首を横に振る。
「確かにお前なら力で吸血鬼の王を従わせることはできるだろうが、念には念を入れておくものだろう。丁度ここには地下牢もある。俺がガキを見張ってやるから、ミカルはどんな手を使ってでもソイツに仲間の居場所を吐かせろ」
協会側はあくまで魔の者を滅したいのだろう。ミカルが俺に告げた内容との相違で、やはり仲間内でも考えがバラバラなことを実感する。
ビクトルに捕らわれたままのククに意識を向ければ、頭上を飛び交う不穏な空気に視線のぶつかり合いに青ざめているのが分かる。
──ああ。相変わらずの演者っぷりだ。
人である二人はまったく気づいていない。
か弱い外見と空気を漂わせた彼は、ただの仮の姿だということに。
いったい何をお考えなのですか?
貴方を守るために囮となり、敢えて捕らわれたというのに……我らが魔の者の王、クウェルク様……。
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