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第24-1話本気だからこそ

「そんな酔狂な者は知らん。もし存在するなら、今ごろはもう少し人と魔の者は歩み寄っているだろ」 「……歩み寄れると、思いますか……それなら良かった」  俺の嫌味に、ミカルが心底安堵した息をつく。  まるで救われたと言いたげで、俺は血を吸いながら顔をしかめる。  ミカルの事情から考えると、魔の者へ罪悪感を持っているのだろう。  しかし、それを差し引いてもミカルの言動が分からない。  魔の者たちに悪いことをしたと思っているなら、もっと俺たちに協力的だろう。  俺を捕らえた時の手加減のなさを思い出すと、どう考えても悪いと思っている者の言動ではない。  ガリッ。歯に力を加え、俺はミカルの血を強く吸った。 「もっと素直になれ。お前の本音はなんだ?」  血を吸われている者へ命令すれば、吸血の快楽に蕩けて骨抜きになったまま言うことを聞いてくれる。  ミカルの本心が分かるだけでも良い収穫だ。退魔師の中でも実力のある男の考えが分かれば、それを攻撃にも脅しにも活かせる。  ミカルの体に力が入る。なんともささやかな抵抗。ねっとりと俺が血をすすり、甘い快感を上乗せすれば、ミカルは小さく震えるた後、声を押し出した。 「……貴方と仲良くなりたい。私の狙いなんて、それだけです」  またそれか。ここまでされて口にできるとは、まごうことなき本心だというのか。  徹底して俺を尊重し、傷つけまいと意地でも誠意を貫き、今も仲良くなりたいとほざく。まるで──。 「ミカルよ、お前は俺に気があるのか? まるで恋でもしているように聞こえるぞ」  嘲りのつもりで口にした言葉。ミカルは首を横には振らなかった。 「そうですよ……否定、しません」  思わず俺はミカルの首筋から口を離し、その顔を呆然と見つめてしまう。  俺の嫌味を冗談で返した……だけだよな?  深刻に受け止めようとする自分が愚かなのだと言い聞かせ、真に受けないように努力していたが──。  ──チュッ、と。ミカルに唇を吸われた。 「な、何を……っ」 「貴方を本気で愛しているから傷つけたくないし、おびただしい快感で誘惑されても耐えられるのです……貴方と、真に心を通わせることができれば、どれだけ幸せなことか……」  うっとりとした表情を浮かべて俺を見つめてくるミカルへ、俺は睨まれたカエルのように硬直する。  いったい俺のどこに惹かれた? 十三年も戦い、命のやり取りを続けていたのだぞ? ままならぬ相手に苛立ちを覚えこそすれ、恋情を覚えるような交流を持ったことなど一度もない。  思わず後ろへ下がろうとするが、血に含まれる微毒のせいで体に力が入らず、無様に倒れかけてしまう。  そんな俺をミカルは咄嗟に抱き留め、助けてくれた。

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