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第25-1話翻弄される男
◇ ◇ ◇
……初めて風呂に入れられた時よりも疲れた。
俺は部屋に戻って早々、フラフラと寝台へ向かって倒れ込む。
洗い方も濡れた体の拭き方も、今までと変わりはない。
指や爪が引っかかり痛みを与えるなど許されないと言わんばかりに、それはもう丁寧に甲斐甲斐しくやられた。
ミカルの本音を知ってしまったせいで、その手つきに特別な意味が込められていることに気づいてしまった。
淫らさなど一切感じさせないまま、ミカルはあの手で俺を愛でている。
いつ気が変わって悪戯へと移されてしまうかと思うと、奴の行動すべてに緊張を覚えてしまう。
本来なら風呂は気を抜ける場所であり、肩の力を抜けるはずなのだが、俺にとっては一番疲れる場所へと変わってしまった。
このまま寝てしまおうかと思ったが──ドンドンッ。ミカルとは違う、少し強めにドアを叩く音がした。
俺の返事を待たずに部屋へ入ってきたのはビクトルだった。
体を起こし、寝台の縁に腰かけながら奴を見れば、随分と疲れたような──今の俺と似たような気配が漂っている。
目を合わせた途端にビクトルの眼差しが鋭くなる。
しかし悔しげに顔を歪ませながら、俺から視線を逸らした。
「どうしたビクトル。なんの用だ?」
「……カナイ……貴様、俺になんの術をかけた……っ!」
身に覚えのないことを言われて、俺は首を傾げる。
「見ての通り、俺は封印されているぞ。どうやってお前に術をかけられるんだ? 変な言いがかりはやめろ」
「だったら……っ、なぜ、俺の記憶が消えているんだ? 何度か意識が飛んで、体に身に覚えのない感覚が残って……魔の者の子であるククに、そんな力があるとは考えにくい。となればお前が仕掛けたとしか思えん」
どうやらククの正体がクウェルク様だということには、まったく気づいていないらしい。
密かに安堵しつつ、この男をどうしてやろうかと考えてみる。
良いように暴れてくれれば、俺とクウェルク様が逃げられる隙を作ってくれそうだ。
そして俺に疑いの眼差しを向け続ける限り、クウェルク様に精神を浸食され続け、やがて完全な僕と化すだろう。
俺がやるべきは、わざと疑いを濃くさせること。
意図して俺は不敵に笑い、ビクトルを挑発する。
「ビクトル、良いことを教えてやろう。魔の者の一部には、魔力を使わずに術を発せる者がいる。目を合わせるだけで、声を耳に入れるだけで、相手を虜にする……その者が真に望むことを見抜き、それを叶えて堕とす者もいるな」
「……それがお前だというのか……」
「さてな。そんな者がいる、と言っただけだ」
俺を疑え、ビクトル。
その屈強な身を奪われていっていることも知らず、弱者と決め込んだククに無防備な背を晒せ。気づいた時にはもう手遅れだ。
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