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第29話本音には本音を
人が起きていないと油断して、ミカルが本音を垂れ流す。
そうやって少しずつ俺に近づき、ものにして、お前になんの得がある?
戦いの最中で惹かれたなどという訳ではあるまい。
いったい俺を求める理由はなんだ? 知りたければ心を譲れと迫るのだろうな。
気になって仕方がないか、絶対に聞いてたまるか。お前に心を預けるぐらいなら、理由など知りたくもない。
どれだけ胸の中が靄がかり、頭がミカルへの疑問ばかりで埋め尽くされたとしても。
空気が揺れる。ミカルが動く気配を感じて身構えていると──頭にそっと何かが当たる。
わずかに感じるミカルの吐息。髪を口づけられたと気づいて、俺は思わず振り向き、ミカルを睨んだ。
「貴様……人が寝ていると思って、何をしている?」
「おはようございます、カナイ。すみません、我慢できなくなって頭にキスをしてしまいました」
「開き直って言うな。もうするな。絶対にやめろ。俺が嫌がることはしないんじゃなかったのか?」
「寝ているなら嫌がりようがないと思いまして……」
「ふざけるな。それがまかり通るなら、俺を薬で深く眠らせ、この身を好き勝手に犯すことすら許されることになるだろうが」
体を起こしながら噛みつくように責め立てれば、ミカルがやけに神妙な顔つきになる。
「……なるほど。その手がありましたか」
「絶対にやめろ! いいか、体の異変ぐらいすぐに気づくからな。誤魔化せると思うな。未来永劫お前を許さない」
「そうなれば長く生きる時の中で、ずっと貴方の心と記憶に住まうことができますね。それが恨みでも、忘れ去られるよりは──」
「ミカル? 少し落ち着け。いつも以上に様子がおかしいぞ」
俺の声にミカルはハッとする。そして一瞬だけ呆然とした表情を浮かべた後、いつもの微笑を浮かべた。
「冗談が過ぎてしまいましたね。安心して下さい、ただの言葉の戯れです。そんな卑劣な真似はしません。でも──」
野生の獣へ触れようとするかのように、慎重に俺へ手を伸ばし、頬へ触れてくる。
「どうすれば貴方の心へ触れることができますか? その方法が分からなくて、少し余裕が持てなくなっているんです……何か手がかりを教えてはくれませんか?」
俺にはっきりと本音をぶつけてきたな。
なびく気は一切ないが、しつこい性根のコイツには何か言ったほうが落ち着くだろう。
真っすぐな本音は受けて立ってやろう。
俺はミカルの手首を掴んで俺の顔から離すと、不敵に笑ってやった。
「我が同胞たちのために徹底して尽くしてくれるならば、少しは俺の心も動くやもしれぬな。俺は自分のことより、守るべき者に手を差し伸べてくれる奴のほうが好ましい」
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