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第36話ヘカランジ
◇ ◇ ◇
ヘカランジは盤の目がそれぞれ縦横に八つずつあり、互いに駒を置き、進めていく机上の遊戯だ。
片方は狩人となり、もう片方はヘカランジという魔物となり、形がすべて同じ駒の中でどれが本体かを見抜き、他の駒で囲って追い詰める──これが大まかな流れだ。
本体の駒は裏の色が違う。始める前にどの場所へ置くかは自由。手堅く守りを固めて後方へ置くのも、意表を突いて最前列に置くのもありになる。
自分の番にじっくり考えていけば、それだけでも時間が稼げると思っていたが、
「際限なく長考されるのは困りますから、こちらを使わせて頂きますね」
ミカルは盤と一緒に小さな砂時計を二つ持ってきてテーブルへ置く。こちらの密かな狙いを早々に潰されて、正直腹立たしい。だが顔には出さず「いいだろう」と俺は頷いた。
ソファへ座る俺たちの間に盤を置き、駒を並べ、交互に遊戯を進めていく。
自分の番になれば砂時計を動かし、落ち切るまでに駒を進める。ミカルに番が回っている間に砂時計はすべて落ち切る。そして再び自分の番になれば、新たに砂を動かす──制限が加わることで緊張感が生まれ、俺の手はじっとりと汗ばんでいた。
ただでさえ俺はヘカランジに集中しているというのに、ミカルは自分の時はおろか俺の番でも関係なく話しかけてくる。
「懐かしいですね。子供の頃、よく遊んでいましたよ……大人顔負けだと評判で、村の大人たちからよく挑まれていましたね」
「……」
「勝てば畑で育てた野菜や、狩りをした時の肉を分けてもらえたので嬉しかったものです。もしかしたら退魔師にならなければ、こっちの世界で生きていたかもしれません」
「……」
「同世代とは勝負にならないからと、駒の数を減らしたり、最初から本体を明かした状態で始めたりして……それでも負け知らずでしたよ」
「……少し静かにしろ。気が散る」
自分の駒を持ちながら、俺は苛立つままにミカルを睨む。
子供の頃だけでなく、大きくなってからもやっているのではないか? あまりに手慣れている。
むしろ俺のほうが以前から時間が経ち、この遊戯の約束事を忘れている。
俺から切り出した提案なだけに頑張りたいのだが、どう考えてもミカルのほうが上手だ。
このままでは俺がミカルに美味しく頂かれるだけ。
回避するには俺が勝たなければならない。何度も深呼吸してて焦る気持ちを抑え、粘り強く抵抗し続けていく。
ヘカランジが終盤へ近づいた頃、ミカルが「ところで」と話を切り出した。
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