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第70話戦闘の最中
敵に背を向けることになるがやむを得ない。
俺は腰を落とし、頭を低くしながらミカルの元へと走り出す。
どれだけ鍛錬を積み重ねた強者でも、純粋な力は魔の者である俺に敵わない。
背後の敵を引き離し、ミカルを追い詰めていた奴らに迫り、躊躇なく切り込む。
剣をひと振りして、刃になんの感触もない。
かわされたか。良い動きで感心する。腹立たしいほどに。
振り抜いた直後、力を抜いて刃を翻す。そして踏み込みながら素早く一閃。
これも軽やかに追手はかわす。が──。
「助かります、カナイ」
体勢を立て直したミカルが剣を構え、追手の一人を切りつける。
肩から胸へと筋が入り、「ぐぁ……ッ」と短く濁った悲鳴を上げて、その追手はよろける。
人より過敏な鼻はすぐに血のにおいを嗅ぐ。
吸血鬼の糧である血だというのに、飢えがまったく湧かない。やはりこの血も腐敗臭がする。
においだけで吐き気を覚え、気が遠退きそうになる。やはり体がミカルの血のみしか受け付けない。
顔をしかめる俺に気付き、ミカルが傍へ寄りながら声をかけてくる。
「大丈夫ですか? どこかケガを?」
「問題ない。ただ、こいつらの血が臭くてたまらんだけだ」
俺にとっては死活問題であり、酷い目に合っているのだが、ミカルはこんな状態が望ましそうに微笑む。
「でしたら早急に逃げて、落ち着ける場所で私の血を……こんな所で無駄に流さないよう、気を付けますね」
声は随分と浮かれているが、剣さばきは勢いが増し、ついさっきよりも凄みが増している。俺の一言でやる気に火が点いたらしい。
少し引っかかるが、やる気を出してくれたのはありがたい。
俺たちは背中合わせになりながら、追手たちと剣をぶつかり合わせていく。
心身に辛さを覚えが悲観はない。
二人対多数で未だに逃亡を阻まれるものの、ここさえ凌げれば欲しいものが待っている。互いだけが味方という状況は厳しいだけのハズなのに、ミカルの微笑みが俺にも移ってしまう。
そうして奮闘している最中──俺の目の前から追手が消えた。
「……っ?!」
俺の切っ先はかすめていない。だが勢いよく倒された追手に代わり、大きな影が俺の前に伸びていた。
その影の頭には、大きなふたつの犬耳が生えていた。
「カナイ様、無事ですか!」
俺よりも大柄で、徹底して俺に仕えてくれる我が下僕。
見慣れていたはずの顔がやけに必死で、それでいて喜びも滲んでいる。
息を詰まらせながら俺はそいつの名を呼んだ。
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