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第75話●二人の当たり前

   ◇ ◇ ◇  あの逃亡劇はなんだったのかと言いたくなるほど、ミカルの隠れ家に着いた以降、俺たちの周りは静かなものだった。  山に囲まれた小さな土地でミカルと二人で過ごす。  それは毎日が穏やかで、優しくて、それでいて──熱かった。 「……っ、ミ、カル……ッ、ぁ……く……っ……」  夜になればミカルは必ず俺を愛した。  もう魔の者と戦わずとも構わないのに、薔薇の香りをつけた紅茶を好んで口にし、俺を抱き締めればいつもバラの香りに包まれた。  激しく抉られずとも、深く繋がって互いを感じ合う時間は俺をどこまでも昂らせた。  ──緩やかな愛し方に焦らされて、俺から思わず腰を振り、激しく求めてしまうこともままあったが。  町に出ようと思えば、秘密の道を使えば苦もなく出ることはできた。しかし特別な用事がない限り、俺たちはこの地から出ず、二人の時間を堪能した。  新たに手に入れたものを、二度と奪われまいという思いが働いていると思う。  この日々を大切にしながら、どこまでも深く、深く、互いを愛する。  正面から覆い被さり、俺を抱いていたミカルが、おもむろに俺ごと上体を起こす。  座ったまま向き合う形で繋がり、自分の重みでミカルをより深く迎える。 「あっ……ぁぁ……ッ……は、ぁ……っ」  濃くなった快楽に思わずミカルの背を掻けば、小さく吹き出す声が耳をくすぐった。 「カナイ……可愛い……もっと甘えて。ほら……」 「ふぁ……ぁっ、ン……ッ……あっ、ぁ、ぁ──」  中を突き上げられ、甘ったるい声が俺から零れる。  こうなってしまえば意地など張れない。体は素直に悦び、もう羞恥など無視して淫らに喘ぐ。  互いを奪い、互いで満たす日々。  俺たちにとってそれは当たり前で、飽きるという概念を失った。  生きる上で誰しも糧を口にするが、それに飽きることはない。  この行為は人からも魔の者からもはぐれた俺たちが、二度と引き戻されないための儀式で、心の糧を与え合う行為。  体の深くがどこまでも熱をはらみ、俺の自我を焼いていく。 「……ッ、ぅ、ぁ、あ──……ッッ!」  何もかもが真白く弾けた直後、ミカルは俺の奥深くを貫き、じわりと熱を注ぐ。  また、世界から引き離された。  極上の快楽に身を委ねながら、その手応えに俺の顔は緩んだ。

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