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第1話
side 鷹島
「すっごく良い旅館だけど、一緒に来たのが僕なんかで残念だったね」
「何で?俺はお前と来たかったんだけど?」
「はは、だからアンタは優しすぎるんだって」
景観のいい窓辺から立ち退いていく背中。その背中に「本当のことだ」と再度声を掛けるも、返答は適当なものだった。
男二人での温泉旅行。
親友と言うには遠すぎて、友人と言うには近すぎる。まして恋人なんてもっと。
俺達は所謂セックスフレンドと言う関係。
大学二年の夏のある日。水城 桜介 は俺に声を掛けてきた。
「鷹島 ってさ、吾妻 の事好きなんでしょ?」
講義終わり誰も居なくなった空間で、そんな不躾な質問をされた。それまで同じ講義を取っていた事もあって顔は知っていたものの、会話などした事がなかった。
ただいつもヘラヘラと笑っていて、印象は遊び人って程度。
「…………だったら何だ?」
吾妻と言うのは俺の幼馴染。小中高大、ずっと離れたことなんて無かった。唯一無二の親友であり、俺の、好きな奴。
「男が好きだなんて気持ち悪いって言いたいのか?」
「ああ、違う違う。そんなんじゃないって。ただ似てるなって思っただけ」
「似てる?」
「そ。僕も同じだから、似てるなって」
それは意外な言葉で、それまでの水城の印象とはかけ離れたものに感じた。
「何?もしかしてそっちこそ気持ち悪いとか言う?」
「いや、そうじゃない。ただ意外だったから。て言うかどうして急にそんな事?」
「ずっと気になってたんだよね。ああ、鷹島ってもしかしたら同じなのかなって。男が好きで、しかも叶わない恋なんじゃないかって」
「………………」
余計なお世話だ、そんな言葉を飲み込んだのは図星を突かれたからだろう。
俺の恋は、叶わない。吾妻には高校時代から付き合っている彼女がいたから。吾妻は優しいからきっと彼女と結婚して、良い父親になる。俺はずっとその幸せを隣で見ていく。そう決めたのは随分前の事だった。
「僕もね、同じなんだ。叶わない恋してる。だからさ――」
――仲良くしてよ。それからその言葉通り水城と過ごす事が多くなった。最初は友人として。ただ何となく自然と話すようになって、食事に行くようになって。
いつだったか慰め合いをしようと持ち掛けてきたのは水城だったように思う。
不毛だと一度は断ったものの結局流されてしまい、一度やれば二度も同じだと繰り返された行為。
そして気が付けば立派な“セフレ”なんて関係になっていた。
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