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第6話

「え?いえ、そんな……こんな物を貰うほど待ってないですよ?」 「いいえ、これは待たせた詫びではなく」 テーブルに置いた紙袋の代わりに鷹島の手は、僕の手首を掴んだ。それはとても、とても力強く。 「――貴方の恋人を攫っていく詫びです」 「え…………?え、ちょ、何?鷹島!?」 僕の思考は置いてけぼりのまま、鷹島の足は店の外へと走り出した。 背中越しに見たのは呆気に取られる堂崎と何事だと注目する客の視線。 僕自身何が起きたのか全然分かってない。だけど腕を引かれた身体は、ただついて行くしか出来なくて。 体力お化けな鷹島がやっと足を止めてくれる頃、僕なんてもうまともに悪態も付けないぐらい息が上がってた。 「はぁ……はぁ……しんど……っ」 「水城、大丈夫か?」 「んなわけ……てかいきなり何!?も、意味分かんな……はぁ……」 鷹島が足を止めたのはちょっとした路地裏で。 人目がないのは幸いとその場にしゃがみ込んだ。 「何が何だか……てか何でスーツ?」 「あー……これは」 しゃがみ込んだ僕の目の前に鷹島も同じようにしゃがみ込んで、目線が同じ高さになる。 「今日、結婚式だったんだ。吾妻の」 「え…………結婚式?え!?じゃあ何でアンタここにいるの……?」 「式だけ参加したからな。良い式だった。心からおめでとうって言えたよ」 「…………」 何て言えばいいんだろう。 何て言葉が正解なんだろう。 目の前で幸せそうに笑う男に、なんて言葉を送ればいいんだろう。 「……お前にも改めておめでとうって言いに来たんだ」 「…………」 「でも悪い……ダメだった。さっきファミレスでお前らが並んでるの見て、渡したくないって思った」 「え…………」 「水城、お前が好きだ。どうしても諦めきれない。お前がアイツを好きでも、俺は水城が好きだ」 あの日踏み出したのは、叶わない恋のはずだった。 「それだけ言いたかった」 「…………っ…………ぅ」 「え、おい、泣くなよ。悪かった。ちゃんと戻って相手に説明するから」 「うっ……違う。違うんだ、待って」 立ち上がろうとした鷹島の手を引いて、僕は首元に縋るように抱きついた。 「好き。僕も好きなんだ、鷹島が。ごめん、ごめんなさい。嘘ついてごめんなさい」 「嘘って…………」 「ねえ、聞いてくれる?叶ってしまった僕の恋の話」 朝、目が覚めても終わらない恋を、君と。 【END】

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