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第1話 推しアイドルと『ある噂』

 メンズ地下アイドルグループ『グリットスター』、通称グリスタ。  20代の男性5人組グループで、所属事務所の専用劇場が主な活動拠点だ。  ライブでは歌やダンスだけでなく、アクロバットなども見応えがあると、界隈ではジワジワと人気が出てきているグループである。  最近では有名動画配信サイトで待望の公式チャンネルが開設されるなど、ますます活躍が期待されている。  サラリーマンである友渕は、グリスタの熱狂的なファンである。  中でもグループのリーダーである厚海 陽一郎を推していて、グリスタファンの間で一目を置かれるほどの熱意で『応援』をしている。  もはや必要経費以外の稼ぎを全て陽一郎に捧げていると言っても過言ではない。  学生時代に自らがゲイであると自覚した友渕は、イケメンでガタイが良く包容力のある男が大好きだ。  その好意には性的な意味も大いに含まれていて、小柄な見た目ではあるがバリタチであるため、そうした好みの男を組み敷きたいという欲望が渦巻いている。  ある日友人の誘いでグリスタのライブ公演を見たとき、陽一郎に一目惚れした。  陽一郎は188センチの高身長、黒髪短髪でスポーツ選手並みの筋トレが日課、特技はプロ並みの腕の料理。首筋にある3つのほくろがチャームポイント。目鼻立ちが整ったイケメンである。  チームのリーダーということもあり、個性豊かなメンバーたちをまとめている。しかも親しみをこめてメンバーやファンからは『厚海ママ』と呼ばれているという、包容力抜群の人物である。  陽一郎があまりにも好みドストライクで卒倒しそうになったことは、友渕の記憶に刻みつけられている。  それ以来友渕は陽一郎の虜になり、熱烈なファンの一人となった。  グリスタを知るきっかけとなった友人は別のメンバーを推しているが、その友人には「友渕は絶対に厚海ママが推しになると思ってた」と性癖が分かりやすいことをからかわれたりもした。  そして陽一郎の人柄を(一方的に)知っていくにつれ、現実にこんなにも理想の男がいるのかと神に感謝した程だ。  突然だが、最近グリスタファンたちの間で囁かれている噂がある。  有名配信サイトに開設された公式チャンネルとは別に、一部のコアなファン向けの配信チャンネルが存在するらしいというのだ。  このチャンネルで配信されている動画は、公式チャンネルやメンバーたちの生配信などでは見ることができない内容だという。  各々が推してくれているファンに向けて動画を撮っているというのだが、詳しい内容は分からない。  推しメンが出演する公演に全通し、グッズも推しメン分を全種購入が必須。他にも諸々条件があるらしく、その条件を満たせると裏チャンネルの会員権を貰えるらしい。  いわゆる太客たちの『応援』の見返りとして、この配信チャンネルは存在しているらしい。 友渕がこの噂を知ったのは、例の友人からの情報だ。 「ああ〜〜俺も裏チャンネル見られるようになりてぇな〜〜」  陽一郎が自分(プラス他のファンたち)に向けて動画を撮ってくれているなら、見られないなどあってはならないこと。  だが今のところ友渕に裏チャンネルを見られる権利はないし、そもそもそんなチャンネルが存在するのかすら定かではない。 「とりあえず明日の握手会に向けて、今夜は早く寝とくか」

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