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プロローグ

 幼少時代、不思議な夢を見たことがある。  一人、高い山を見上げているのだ。周囲にはたくさんの木々が生い茂っていて、太陽の光を浴びた緑が美しかった。  ――たんけん、してみよう。  軽い気持ちで山道を歩いていたその時、近くで人の気配がした。クスクスという、楽しそうな笑い声が聞こえる。  きょろきょろ、見回してみた。どうやら声の主は複数で、木々の陰に身をひそめているようだった。かくれんぼの鬼になった気分で、何気なくのぞいてみる。その先にいたのは……。  ――おうじさまと、おひめさま?  そうとしか思えなかった。特に目を奪われたのは、輝くような男の美貌だった。まばゆいばかりの金髪に、透き通るような色白の肌、くっきりとした目鼻立ち。体格はたくましく、薄布をまとっただけの上半身からは、雄々しい筋肉が垣間見えていた。女も美しかったのだろうが、よく覚えていない。それくらい、男の姿は印象的だった。  二人は、抱き合いながらキスを交わしていた。見てはいけないものだ、子供心にもわかった。それでも、目が離せなかった。  その時だった。見られていることに気づいたのか、女がキャッと悲鳴を上げた。そして次の瞬間、女はあっという間に走り去って行った。  残された男は、そこでようやく、目撃者の存在に気づいたらしい。鋭い瞳で、こちらをにらみつけた。そして、びしりと指を突きつけると、何事かを言い放った。  彼が何と言ったのかは、わからないままだった。そう、十七歳のあの日までは……。      

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