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 正直、この状況から今すぐにでも逃げ出してしまいたい。けど、この部屋は俺の部屋だし、壱人と一つになることは言ってみれば俺の本望でもある。 「もちろん全力で優しくするし、全力で……」  その後に続く台詞、気持ち良くしてやるを耳に熱い吐息を吹き掛けながら言われ、ぶるりと震えた。期待からくる身震いとも不安からくる震えとも取れるそれに気付いた壱人が、俺の右手を恋人繋ぎでぎゅっと握りしめてくる。  俺の手の震えを止めるようにしっかりと握られたその動作が、まるで大丈夫だよと言ってくれているようでがちがちに固まった緊張を()ける分だけなんとか解いた。  ベーコンレタスの同人誌で見慣れているシチュエーションの渦中にいることが、こうなった今でもまだ信じられない。まずは壱人が俺のことをこう言った気持ちで好いていてくれたことにも驚いたし、まさかこんなに早くこんな展開になるなんて。  告られたその場で押し倒されてエッチに突入とか、これは普通に考えたら俺が拒否れるシチュエーションなんだろうけど。 「泉。かわいい」 「なっ……、あっ」  それでも壱人に抱かれたいだとか壱人とセックスがしたいだとかのレベルじゃなく、ただ、まだ壱人の存在をこの身に感じていたかった。擦れ違いが続いたおよそ5年間を取り戻すってわけでもないけど、このまま壱人とこうやっていたい。  特に夏休みに入ってからの数週間は中途半端に壱人が近くにいたせいか、その擦れ違いの度合いが微妙すぎて息苦しかった。そんな壱人がこうやって真っすぐに俺を見ていることも嬉しすぎて、俺に壱人を拒否ることなんかできるはずがない。 「泉。ちょっと腕上げるぞ」 「え」  壱人はそう言うと、俺の腕を上げて俺のTシャツを一瞬で脱がしてしまった。あまりにも見事な凄技に呆気にとられ、壱人の元カノたちに嫉妬するなんてベタな感情さえ沸き上がらない。  ここは経験値が語るその技から元カノたちに嫉妬するべきだろうに、あまりの手際の良さに嫉妬するどころか感心してしまった。何と言うのかこの行動は、俺が童貞を捨てるにあたり本来なら俺が取るべき行動だからなのかな。  なんとも不思議なことに、その凄技を繰り出す壱人の自身に嫉妬しているような気がする。それは多分、俺も壱人と同じ男だからなんだろう。  今までに数え切れない女の子たちと壱人がエッチしてきたことは周知の事実で、この辺はどうやら嫉妬の対象にはならないらしい。

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