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最終話

 俺たちは今、ベッドの中…。抱きしめられた腕の中は、思っていたよりもずっと温かくて、離れたくないと思った。隣で眠っている瀬崎の骨格を指でなぞる…。 「んっ…」 「あっ、起こしちゃった?」 「いやっ、起きてた」 「おはよ」 「おはよ」  ゆっくりと手が伸びてきて、髪を梳かれる。それだけで、どくんと心臓が脈を打つ。くすぐったくて肩をすぼめると、そのままぎゅっと身体を包まれた。 「おい、真中聡弥」 「なに?」 「僕はまだ聞いてないんだけど?」 「えっ、なにを?」 「お前の気持ち…」 「あっ…」  抱きしめられていた身体を離されて、覗き込むように言われた。そういえば…、  昨日は、キスをした後にマンションへ着くと、そのままお互いに求め合った。瀬崎は何度も俺に好きだと囁いてくれたのに、俺は瀬崎を受け入れるのに必死で…。自分のことばかりで、瀬崎の気持ちなんて考える余裕なんてなかった。 「でっ?」 「んっ?」 「お前は…?」  更に顔を近づけてくるから、俺は瀬崎の首に自分の腕を巻き付けて引き寄せた。そして、耳元に口が触れるか触れないかまで寄せると、 「好きに決まってんじゃん」  そう言って耳朶をはむっと唇で挟む。くすぐったそうに身体を縮こませた瀬崎大和が可愛く思えて、そのまま舌でペロリと耳をなぞると、力いっぱい抱きしめられた。 「苦しいんだけど…」 「お前が悪い…」  ベッドへ倒されると、上から俺を見ている。逸らされることのない瞳。顔がゆっくりと近づいてくるのがわかって目を閉じると、唇が重なった。俺を腑抜けにするキス。きっと、これからもそんなキスは瀬崎とだけ…。 「大好き」 「僕もだ」  二人で照れ笑いをしながら、何度もキスをした。  スーツに身を纏った俺は、鏡の前の自分に魔法をかける。 "真中聡弥、お前になら出来る"  学校には休学届けを出した。父さんが戻ってくるまでは、自分に出来ることをやろうと決めたから。マンションも引き払って、自宅へと戻った。  そして、俺は鏡に背を向けると歩き出す。俺を待っている愛しい人のところへ…。  玄関のドアを開けると、目の前には黒のベンツが停まっている。助手席のドアの前に立っている瀬崎大和の姿を見つけた。 「おはよう」 「おはようございます」 「堅苦しくない?」 「仕事ですから…」 「ふーん…」 「どうぞ」 「それじゃあ、行こうか」 「はい」  ドアが開かれて、乗り込もうとした瞬間… 「ねえ、何かあったら俺を助けてくれる?」 「忘れたのか? 何があっても側にいるって言っただろ」 「うん」 「ほらっ、乗って」  背中にポンッと触れられた手。俺は、静かに頷くと車に乗り込んだ。運転席へ座った瀬崎が、そっと手を握ってくると、 「真中聡弥なら出来る。必ず…」 「うん、ありがとう」  握られた手を握り返すと、瀬崎が優しく笑った。この手を離したりしない。そう心に誓った日。俺も、お前に向かって微笑んだ。

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