1 / 16

第1話

 喧騒の一日を終え、やっと私の仕事が終わった。明日と明後日は久々に続けての休みで、安堵の吐息が自然と漏れる。  お疲れさまでした、と廊下で擦れ違った客室係の女性スタッフが声をかけてくれた。彼女は昼間の騒動をまだ知らないのか、私が、「お疲れ様です」と返答したあと、地下ではなく客室へ向かうエレベーターホールへと歩いて行くのを不思議そうに見ていた。  エレベーターに乗り込み、上階へ向かう。自分の職場に泊まり込むことは多々あるが、こんな形で利用することになるとは思いもしなかった。エレベーターが目的階に着き、他のフロアとは違う高級な空気に少し背筋が伸びた。  このフロアに今夜宿泊するのは私達だけ。先程、コンシェルジュから彼が外出から戻っていることを聞いた。突然のハプニングにも関わらず、彼の真の友人達は宴席を用意して彼を祝福してくれた。このホテルのスタッフ達も誰一人、私と彼を嗤うことなく素晴らしい結婚披露宴をサポートしてくれた。  ――私は本当に彼と……。  スイートルームの扉の前で一人立ち止まる。この扉の向こうに彼がいる。夢のような出来事はこの扉を開けたら醒めたりしないだろうか。  不安な気持ちを抑えて私は呼び鈴を押した。

ともだちにシェアしよう!