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第2話

「お仕事、お疲れさまでした。千晶さん」  重厚な扉が閉まるなり、高橋敏也は満面の微笑みで私を優しく抱き締めた。  ワイシャツにスラックス姿だが彼からは仄かに甘い香りが漂っている。きっと先に入浴を済ませたのだろう。昼間はきちんとセットされていた髪も今は無造作に下ろされていて、その面立ちに幼さが表れている。 「食事は?」 「……もう済ませました」  敏也の頬が少し赤い。酒は弱くないと昼間に種明かしをしてくれたが、酔いが顔に出るタイプなのかもしれない。 「えっと、じゃあどうします? 少し落ち着いて話でも?」  敏也はなぜか弾んだ声で私に言った。それはまるで、恥ずかしさを隠すようだった。それに私もつられる。心臓がいつもよりも早く鼓動するのを感じながらも、何とか冷静を装って、 「この格好では落ち着けないので……。私もシャワーを先に」  ああ、と敏也は大きな声をあげると「こっちですよ」と部屋の造りなど、とうに知っている私を浴室に案内してくれた。

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