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第16話
細かな泡が微かに揺らめくシャンパングラスから冷えた液体をひと口含んだ。そのまま飲み込まずに首を傾けると、敏也が私の唇を迎えてくれて口移しで甘いシャンパンを与えあった。
敏也は熱を潜めた低い声で私に囁く。
「まだ僕らはハネムーン中ですよね。もう一度、寝直しませんか?」
「そうだな……。今度は君が『抱かせて』くれるんだろう?」
私をベッドに連れて行こうと手を取った敏也が、ええっ、と驚く。その様子に私は声をあげて笑ってしまった。
「冗談だよ、そんなに怯えないで。もう私は誰かを『抱く』ことも誰かに『抱かれる』こともない。これからは君だけだから」
椅子から立ち上がり残ったシャンパンを飲み干した私に敏也が苦笑いで、
「僕は貴方のような余裕のある男には程遠い」
優越を感じながら敏也の隣を歩き出す。すると背中に手を廻してきた敏也がそっと私に耳打ちした。
「でも、昨夜のような乱れたかわいい貴方の姿をこれからも拝めるのは僕だけの特権です」
敏也の言葉に思わず、う、と声を詰まらせた。そんな私に彼は爽やかに笑いかけ、そして私もその笑顔に応える。
「愛しています。千晶さん」
そっと頬に口づけられて、私の手を引く敏也の温もりにこの幸せが永遠に続くことを確信して、私達は太陽が照らし始めた海を背に寝室へと消えていった。
(了)
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