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第1話 高瀬

ーーなにか話してーー と言われて ーーどんなことが聞きたい?ーー と聞き返すと、 うつ伏せの真乃斗くんはトロリとした視線だけをこちらに向ける。 その視線を外さないようにして 身体全体を真乃斗くんの方へ向けて横向きになると、 勝手に手のひらがその柔らかい髪を撫でた。 するとどこか落ち着いたように、 真乃斗くんの視線は自然と俺から外れて、 それは少し残念で、そうしてホッと満足もする。 薄暗い部屋のベッドの中で、 なぜだか隣にいるその男だけが明るく見える。 うっとりするような肩甲骨と背骨を見せびらかせるようにして うつぶせのまま、 枕に柔らかい茶色がかったその髪を、無造作に散らしたその姿のすべてに、 身体のどこかが痛いくらいにきゅうっとして、自然と目を細めた。 彼が明るく見えるのは それは彼がいま裸だからとか、 露わになってるその肌がずいぶんと白いこととか、 おそらくそういったことが理由ではないことはわかっている。 そんな風にして真乃斗くんを ・・・正確にはその髪を、背中を、その肌を・・・見つめていると、 ーーなんでもいい。高瀬さんの話しーー まるで思い出したように突然、そう言われるから ーー俺の話しねぇ、、、ーー と言ってから少しだけ考えて ・・・考えたふりをして。 本当にどうでもいい、なんなら俺の話しでもなんでもない、 他愛もない話しをしはじめる。 実際、俺のする話しの内容がどんなことであっても、 なんなら真実ではなかったとしても、 真乃斗くんにとってはあまり重要ではないことを、もう知っている。 さっきまで抱き合ってたその余韻と部屋の温度が少し湿っているせいで、 裸なのにまったく、寒くもアツくもなくて気持ちがいい。 それとも、その心地よさは 撫でている柔らかい髪の撫で心地のせいだろうか。 はたまた今日の昼間、 真乃斗くんが洗ってくれた、洗いたての寝具のおかげかもしれない。 、、、といっても、 その「洗いたて」の痕跡は 数時間前に少しの余韻を残して、消え失せてしまったけれど。 話し始めておそらく2分もしないうちに 真乃斗くんの寝息が聞こえて、俺は話すのを止める。 寝息に合わせて震える、長い睫毛を見つめた。 一度閉じたらもう二度と、少なくとも朝日が昇るまでのあと数時間は、 よほどのことがないと開かないことを知っていて。 ふぅっと息が漏れるけれど、 そのため息はは決して、落胆ではなかった。 長い睫毛ともう開かない瞼の持ち主を見つめながら 「またですか」 と、あえて言葉にして言ってみる。 そうして、 そんな風に言う自分のその声もまったく、がっかりはしていないのだった。

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