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第2話 高瀬

ここのところほぼ毎晩くり返されるこの光景に、 いまはもうずいぶん慣れて、そうして、それをただ幸福だと思う。 数カ月前から共に暮らしはじめたこの男はきっと明日の朝、 おそらく目覚めた瞬間から目覚めた後にも。 綺麗さっぱり、このことを忘れているだろう。 たったいま、数分前までこのベッドの中で あんなにアツく視線を絡ませ合って、はしたない世界で二人きり、 ずいぶんと夢中になっていたそのすべてが まるで夢の中の出来事だったというように、 あっという間に眠りについてしまったこと。 真乃斗くんが寝てしまったたったいまもなお、 まるでこの世界にはたった二人しかいないというような、 そんな妖しい空気が色濃く漂っているというのに、 この若い男は自分のために話をする俺を置いてさっさと独り、 それもとても気持ちよさそうに 俺のいない世界へ旅立って行ってしまったことを。 俺だけが忘れられない、そんなすべてをもうすっかりさっぱりと、 本当に忘れてしまうのだ。 「おやすみ真乃斗くん」 独りよがりにならざるを得ない夜の挨拶をすると、 上掛けを肩まで上げてやった。 そうして、俺も布団に潜り込む。 もう一度、あの背中にキスをしてから 瞼を閉じればよかった、、、と思ったときにはもう、 俺も独り、その世界へ旅立っていた。 ーーー・・・・・ 朝は自然と目が開く。 もう随分長く、日々、同じ時間に起きているせいか、 真乃斗くんにとっては信じられないらしい、ほぼ同じ時間に 目覚ましなしでも瞼が勝手に開くことは、 俺にとってはあまりに普通のことになった。 目が覚めたとき、同じベッドの中には いまだ開かない瞼を持つ、その男がいる。 ちゃんと息をしているか気になるほど、 昨晩最後に見たときとほとんど変わらない格好で。 一緒に暮らしていてもなお、俺は毎朝、起きたときすらも独りきりなのだ。 そして、独りきりなのにホッとする。 あとどれくらい開かないのか、見当もつかないその瞼を人差し指でなぞると アツいくらいの体温を感じるけれど、真乃斗くんは少しも動かない。 それでも俺は、隣にいてくれたことに満足する。 自分が目覚めたそのとき、この寝顔を見れたことにホッとするのだった。 音を立てないよう気を配りながら独り起き出して、 キッチンへ行くとコーヒーを淹れた。 これも彼と一緒に住むようになる前から、 ほとんどいつものルーティーンなのだった。 カーテンを開けると、今日は朝のヒカリがずいぶんと眩しい。 ダイニングテーブルのいつもの椅子に腰かけて、 コーヒーの香りを、まるで全身にいきわたらせるようにして吸い込んだ。 自然と瞼が閉じていることに、俺はいつだって気づいてはいない。

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