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第3話 高瀬

今日はあとどのくらいしたら、 真乃斗くんはこの部屋にやってくるだろう。 一緒に暮らしだして、いまのところの最短記録は 俺がココに座ってからきっかり「33分」後だ。 真乃斗くんも目覚まし時計や携帯のアラームを使わない。 けれど、起きた時間が起きる時間だと言って、 いつだって起きてくる時間はバラバラなのだ。 おまけに俺の知る限り、 真乃斗くんは俺より早く目覚めたことが一度もない。 どんな朝も、先にリビングで座りながら珈琲を飲む ・・・あるいは新聞や本を読んでいたり、パソコンを弄っていたりする・・・ 俺のもとへ、いつだってあとからやってくる。 首回りが大きく開いた、ダボっとしたトレーナーを一枚だけ羽織って。 そうして、リビングのドアを開けて座っている俺と目が合えば ーーおはようーー と、どこかぼぅっと、笑いもせずに言って ーーまたオレより早いねーー と、まるで独り置き去りにされたことを不服みたいな顔をして ーーオレもコーヒー飲みたいーー と、淡々と言ってのけるのだ。 そうしてそんな真乃斗くんに 起きて一番に会えたことがただただ嬉しい俺は思わず 笑って、、、 「おはよう。よく眠れた?」 と言ってしまうだろう。 昨日、先に寝てしまったことへの文句を言うことなんて 思いつきもせずに。 でも仕方がない。 きっとこれが、惚れた弱みというヤツなのだろう。 壁を隔てた向こう側に真乃斗くんがいると思うだけで 俺の孤独な朝はそれでも、目に見えないナニカが溢れる。 それは幸福とか喜びとかそういった、目に見えないけれど存在するものたち。 今日は休みで急ぐ用事も何もない。 こうして独り、真乃斗くんを待てる幸せを感じながら コーヒーの香りをまた、全身で浴びた。 ーーー・・・・・ 惚れるのに理由はいらない。 気づいたときにはもうそうだったってだけで十分だと 俺は思う。 あとからそれっぽいモノを取ってつけようとすれば、 もちろんそれは可能だ。 たとえば真乃斗くんの声。 真乃斗くんの笑い方。 真乃斗くんの泣き方。 染めてないのに柔らかい色をした髪。 クリっとした潤みがちな瞳。 そうして、、、真っすぐな背骨。 見た目だけでもそりゃあたくさん。 でも実際、惚れるってのは見た目だけのことではない。 ただもう気づいたときには惚れていたというだけのことなのだ。

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