1 / 7

沈魚落雁

んでいく夕陽がまるでこの世を水で満たしたように美しく彩り常闇に誘う その中を泳ぐ金の様を遊女に揶揄するとして やがて遊女は水の底にちていく 底に沈んだ死骸は(がん)さえ(つい)ばまずに腐り金魚鉢の水を濁らせる ――鉢に針でも垂らしてくれたら死ぬ前に喰いついて外に出られたかもしれないのに そんな粋な口説き文句を言う人なんてもういない 常套句(じょうとうく)のような苦界の蓮華なんて真っ平御免 気を引けなければ目の前から過ぎていき 気分を害せば目にも止まらない 誰にも奪われることのない自分だけの財産を手に入れよ 成り上がりたいなら技術を欲し 身につけ 盗むこと 殺意に似た熱意を手放した瞬間 絡みつくあらゆる欲望に呑まれ あっという間に土左衛門(どざえもん) さもしい人間であろうと 貴い身の上であろうと  権力という衣が剥がれれば 死なば諸共ただの(ふな) 人の形をしている今は濁流であろうと ドブ川であろうと泳ぎ続けなければならない  金貨と銀貨が自分の価値と同等に扱われるこの苦海において 美しい鱗さえ持たざるものの価値なんて 連なった糞ほどもない 醜猥(しゅうわい)な欲に溺れず 誰にも決して犯されることのない身一つの財産  自分の恣意(しい)を通したかったら この苦海を絢爛豪華(けんらんごうか)に生き延びてみよ 人であれば、まだどうにかしようもあるものだが 人ですらなくなってしまった身の上で なんの価値もなければ腹を天に向けた精液まみれの無残な死骸 鱗が剥がれ 天を仰いでパクパクと 肉さえ腐って落ちたなら  魚遊釜中(ぎょゆうふちゅう) 俎板(まないた)(こい) (むくろ)から目が落ち めでたい めでたい 

ともだちにシェアしよう!