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前編

13回目の僕達の誕生日、薔薇の下に秘密が産まれた。 退屈なパーティーを抜け出して、夜の庭園に忍び込む。どうせ僕達の誕生日にかこつけた大人たちの社交の場に過ぎない。 僕と同じ顔をした兄のヘンリーは、僕よりも身体が丈夫で、僕よりも強くて、僕よりも頭がいい。将来爵位を継ぐのにもってこいの後継者だ。 そして僕にとても優しい。今だって僕が小さく震えているのに気づいて上着を掛けてくれた。 ヘンリーは僕の手を引いて、 「誰にも内緒だよ」 って城壁の前に生える薔薇の茂みの中に四つ這いになって入っていった。ヘンリーは戻って来なくて、僕は心細くなって彼の名前を震える声で呼んだ。小さく僕を呼ぶ声が聞こえて、勇気を出してヘンリーに倣って茂みの中に頭を入れる。すると、レンガの形に沿ってくり抜かれた穴が口を開けていた。ひょっこりとヘンリーの金髪と緑の目が現れる。 手を差し出されるままに入ると、そこは広い空間が広がっていた。布が敷かれた寝台に、机に積まれた本、飴菓子の入った瓶、長椅子、とそこに人1人が暮らせそうな部屋だ。そして何よりも目を引いたのは、部屋中に飾り付けられた、薔薇、薔薇、薔薇ーーーーー ベビーピンクに、真紅に、スモーキーな紫色に、透き通るような純白が、モザイク模様を作って部屋の中をバラ色に染め上げている。どこから持ってきたか分からないけど、薔薇の花弁がこれでもかと描かれた絵画もあった。画面左から花弁が雪崩れ込み、そこに埋もれながら寝そべったり、それを眺めて豪華な食事を摂ったりと、ギリシア風の衣装を着た人たちが宴会に興じているような絵だ。 「気に入った?」 ヘンリーは僕の顔を覗き込む。僕は秘密と謎に満ちた部屋にワクワクして、こくこくと頷いた。 ヘンリーは、すごい。 僕を喜ばせる為に、秘密の部屋に招待してくれて、こんな飾り付けまで。 でも、 「ヘンリーごめんね」 僕はしゅんとして項垂れた。ヘンリーは慌ててどうしてって聞いてくる。 だって、ヘンリーに何も用意していない。僕にあげられるものなんて、何もないから。2人一緒の物しか与えられないし、ピアノも絵画も詩の朗読もヘンリーの方がずっと上手い。 僕がボソボソとそう言えば、 「そんなことないよ。ボク、リチャードから欲しいものがあるんだ」 ヘンリーは目を輝かせた。彼と同じ色をした、僕の瞳もそれに呼応する。だって、僕はヘンリーが喜ぶならなんだってする。僕なんかがヘンリーに喜びを与えられるなんて。僕の返事はすぐだった。 「リチャードが欲しい」 僕はぽかんとした。ヘンリーは、熟れたリンゴのように真っ赤になっている。 「リチャードが好きだ。だから、その」 口付けをして欲しいって、いつも堂々としているヘンリーから想像もつかないほどか細い声が出た。口付け?男同士で?変なの。 でも、ヘンリーが望むならしてあげたかった。 いいよ、って言えば、ヘンリーは小鳥のように震えながら唇を押し付けてきた。啄むように何度も口付けを繰り返される。その弾力の心地よさと、握られた手から伝わる彼の緊張感に、僕が彼を支配できているような感覚を覚えてぞくりとする。 僕よりも身体が丈夫で、僕よりも強くて、僕よりも頭がいい、将来爵位を継ぐのにふさわしいあのヘンリーを! 僕達は唇で喜びを分け合った。 愛する者を手に入れた歓びと、 悪魔の誘惑に似た甘美な悦びとを。 薔薇の天蓋の下で、僕達だけの秘密が芽吹いた。

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