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第1話
「パクられただぁ!?」
事務所内に蓮見恭一 の驚愕と怒りの大声が響いた。
実の祖父であり、広域指定暴力団のトップである龍信 が言うには、黒瀧組の幹部が鉄砲玉を使い、敵対組織に発砲して重軽傷を負わせる事件が起こり、逮捕されたのだと言う。
「黙れ騒々しい。俺には捜査は回ってこん。それに、幸い弁護人はあの三國貴美子 だからな。多少臭い飯は食う羽目になっても、判決は軽めになるだろうよ」
「そりゃあ幸い……なのか?」
龍信が名刺を取り出し、ひらひらと振って見せた。それを蓮見も奪い取って視線を落とす。
三國法律事務所。その評判は多方面から聞こえてくる。
事務所代表、貴美子のオーラはヤクザでなくとも忘れることはないような迫力があり、しかし惚れ惚れするような美女の弁護士だ。
相手がヤクザであろうが凶悪殺人犯であろうが何も怖くはないという態度で、むしろヤクザの方を助けてもらったこともなきにしもあらず。
「ああ、もちろん。なにせ貴美子の息子が、お前が好きそうな男だと記憶してしまったものでな……」
孫といっても、下に妹が二人や己も愛人がいる、そしてあのクラブ会員なのだから性的嗜好などもはやどうでもいい、ある意味寛容すぎる尊大な祖父である。
柳は両刀遣いの蓮見と違って男にしか興味のない人間だが、男でも泥臭い体育会系の、強気なぐらいがちょうどいいらしい。
蓮見は反対に、思わず守ってやりたくなるような、何なら精神的に病んでいるような、女々しい方が好みだ。
それなら男である必要はあるのかという話だが、その「アンバランス感」や「面倒臭さ」が良いというものだ。あまり理解はされない風潮ではあるが。
「えっ……あの弁護士に息子なんていたのか?」
「大っぴらには言っていないがな。なにせ、あの田崎 議員との隠し子、それも明皇の生徒だ。それはそれは温室育ちの坊ちゃんだぞ」
「えげつねえ情報量だな……」
田崎というのは、高齢の大御所国会議員だ。
彼は現在、政治と金の問題で辞任に追い込まれようとしている。クラブに入り浸るほど真っ黒な人間だったものだから、それも致し方ないと言ったところだが。
「でも一応、田崎は会員だろ? 俺が手出して良いのか?」
「ああ、構わんさ。どうせしばらくすればクラブからも良くて除名、悪くて辞任前に自殺だ」
龍信は意地悪く笑った。さすが古参会員である。クラブの内情には、蓮見などの若手よりもよっぽど詳しい。
確かに、一度でもクラブに関わった人物に更生して真っ当な人物になった者など誰一人いない。龍信もそうであるように、自分もだろうな……と何となく将来を俯瞰する。
途端にその息子とやらに強烈な興味が湧いた。国民に非難される悪徳代議士と、その正反対とも言えるエリート弁護士との子……。
しかもかの、切っても切れない関係性であるらしい、明皇学園の生徒だ。いったいどんな人間に育ち、生活をしているのだろう。
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