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第2話
息子の三國秀典 を調べてみると、明皇では風紀委員長を務めていた。
弁護士を親に持つ者として頷ける地位だ、というか、正にその通り、というか。大きく風紀と書かれた腕章がキラキラと輝いて見えるように似合っていた。
確かに蓮見の好みの中性的な外見だ。色白で華奢で、目元がキリッとつり上がっていて、いかにも生意気そうな雰囲気で……顔は美少年の類に入るレベルだ。背もすらりとしていて、姿勢良く颯爽と歩く姿はなかなか惹かれるものがある。
それに今時の学生とは思えない律儀な七三分け。きっと見た目通りの優等生なんだろう。
と思いきや、やはり三年A組。難関大や留学を目指す、過去に堕とした生徒会長であった如月司も属していた超特進クラスだ。
……良いな。優等生は嫌いじゃない。俺達みたいな人間を社会のゴミと見下して、自分が高潔だと思い込んでいる輩をめちゃくちゃに犯すのは、正直かなり気分がいい。
下校時刻、自身の車から見える彼の姿と携帯の盗撮画像とを見比べながら、蓮見は強面を崩してうっとり微笑んだ。
「可愛い……」
口元を緩ませる様は、ペットの爬虫類に向けるそれと似ている。
愛らしい。この手で抱き締めたい。キスをしたい。いや、何ならハメたい。
柳と比べれば寡黙で仕事に忠実な人間に見える蓮見も、所詮は若い下世話な男。実物の彼を見てしまっては、想像力だけではどうしようもなかった股間が自然と膨らむ。
さて問題はどう接触するかだ。自分からヤクザであることを明かすのは全くのマイナス。まあ、こんな身なりなのでそのうちばれるだろうが。
「あのーお兄さん。ちょっといいかな?」
「あ? ……あー……あぁぁ……」
と、声のする方に顔を向けると、制服警察官が窓を叩き、こちらを覗き込んでいる。
渋々開けて対応する。なんでも学園付近に不審者がいると通報があったらしい。
「こんなところで何してるの? とりあえず免許証確認させてくれる? あと荷物ちょっと見せてね」
「見ない顔だな。新人? あんた管轄どこ?」
「な……失礼な。新宿北交番だけど?」
「ハァー……やっぱり。ここいらの警察官で俺を知らねえって、あんた警察学校出たてってとこだろう。教官だって知ってるのに、それは教えてもらわなかったのか? いいからハコ長出せハコ長。すっげえ回りくどいことになるけど、署長に連絡するように言ってもらってもいいぞ」
「ちょっと。何なんだ、君は。蓮見恭一さん……? 蓮見……蓮見……いや、知らないって。大丈夫? 何かあるなら話聞こうか?」
どうやら本当に配属されたばかりの新人警官は、さすがにムッとした表情をして蓮見を睨んだ。性質の悪いチンピラだとでも思っているんだろう。難癖つけて交番へ連れて行かれそうな勢いだ。
「蓮見……だって!? まさか黒瀧の……!? な、なんてことだ……」
応援すら呼ばれそうな雰囲気の中、あまりの衝撃にか学園指定の鞄をその場に落とした秀典がそこに立っていた。
「あれ、君その声、通報した人?」
「あ……はい。この学園の生徒です」
速攻で素性がばれた。しかもよりにもよって、通報者は秀典自身。
何故だかショックだった。まだ何もしていないのに。見つめていただけじゃないか。勃起するのは自分では止められない、男の生理現象じゃないか。
「で……結局君、誰なの。署長呼べって、無理にもほどがあるよ」
「あの……お巡りさん。この人、黒瀧組の構成員です。何なら、警視総監も呼べますよ」
「え……それは……あ、あはは、いや僕実は刑事ドラマ見て公務員になっただけだから知らなくて! いやー参ったな……そういうのは作品の中だけだと……」
だんだん語気が弱くなる警察官と、鞄を拾って肩に下げながら、凛とした態度で対応する秀典。
母の影響か、場を宥めることには慣れているし、黒瀧ひいては蓮見組への情報網も持っているときた。
若い警察官は免許証を返すと、「以後気を付けてね」と冷や汗を滲ませながら去った。
「助かった……」
「助けてなどいない。まだ犯罪を犯していないから仲裁したまでだ。まだ、な。そもそも暴力団という存在そのものこそ……」
一人でうんうん呟き始める秀典。今さら倫理観とか法律論は聞きたくない。
でもせっかく彼の方から来てくれたのだ。警戒は既にされているけれど、これ以上怖がられないように、サングラスを外してみる。結構つぶらな瞳をしているだろう? 愛しの蛇みたいに。
「な……なんだ、僕をそんなに見つめて。やっぱり変質者……? それとも母に何らかの恨みがあるのか? 冗談じゃないっ、それこそ訴えてやるぞ」
ただ視線を合わせだけなのに話が飛躍した。ああ……やはり秀典の母が弁護士というのは、ヤクザの自分には相当なハンデだ。
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