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2.伊藤 宗壱
すみません、ここから書き手が代わります。伊藤宗壱です。よろしくお願いします。
理宇は推敲が長いんだもん。
その日の昼休み。
「ほんじゃー、放課後の会議は体育祭の実行委員らと共同ね。解散」
空き教室を改造した生徒会執行部室、ロの字に並べた長机。上座の会長がテレっとした口調で〆る。みんなが椅子をガタガタさせる間に、書記のオレはタブレットで昼休み分の議事録を軽くまとめていく。
「伊藤くん、委員と審判団と応援団全員に、開催教室と資料、学籍メールで個別再送しといて」
書記はほぼほぼ連絡網係なんだよね。文書PDF根回し役。皆様の伝書鳩ですコンニチハ。
メール画面を開きつつ、首の上げ下げだけで副会長に了解を示す。と、その首を誰かの腕が背後からガッと締める。
「体育祭終わったら、選挙じゃーん。伊藤、会長選出るの?」
同学年の会計監査副長の井上だ。黒縁メガネ男子で善人臭を前面売りにしてる割に、言動は軽い。
春の学園祭、秋の体育祭、冬の選挙戦は学園の三大イベント。生徒会全職と各委員長を、人気投票で決める学園の選挙戦。国政選挙の初舞台と称されるほど、創立以来代々白熱してきた行事だ。当落に関係なく、推薦人を集めて立候補できるだけでステータスになっている。
「次の会長か。うーん、理宇次第かな」
「やっぱり出馬するなら、ハラリューとペアか。そっか、うん」
高等部二年生から選出される生徒会長副会長は、ペア立候補、ペア投票。オレが会長選に出るとしたら、相方は自然と理宇だと思う。
「井上は立候補すんの? 会長? 会計監査長?」
「伊藤はさー。部活の役職、何が確定してる?」
井上はオレの問いに、質問で返してくる。各クラブ内の役職の決め方はまちまちで、冬の選挙戦とは無関係。
「来年度も、サブカル研の会計は内定」
「部長じゃないんだ?」
「いや、オレは作品描いてないから、部長職は無い。でも、受験生になっても卒業しても、しばらくサブカルの金はオレが握る」
中一の秋頃、理宇✕オレを模した十八禁の薄い本が学園内で流通したんだ。サブカルチャー研究会の先輩方の所業だった。
で、中二から入部して以降ずっとサブカル研の会計に君臨し、オレが学園BLを監修してる。他人のえろへの想像力はイチャイチャのイイ刺激になるから、内容には極力口を出さないんだけどね。
理宇の裸体絵のバランスが狂ってるのは、絶対に許さん。彼のカラダは本当に美しいんだぞ。着衣の上からはスラリと見えるのに、実は綺麗に割れてる。指でなぞっていくと、とても楽しい。
あー早く触りたい。
ニヤつくオレを無視して、現・会計監査副長殿は話を続ける。
「僕は、ボラ部長」
「似合う」
ボランティア部は『医学部進学ならボラ部へ!』というエゲツない勧誘を行っている団体だ。医学部受験ノウハウと引き換えに、毎月法外な部費を徴収。学外のボランティア活動に、膨大な寄付金と潤沢な人手をバラ撒いている。
イイヒトに見せかけて、深謀遠慮ウラがある。なおかつノリが軽くて憎めない井上に、ボラ部長職は似合ってる。
「でね、今、会長ペア戦にも出馬しろって推されてるの」
絡んだ腕が下がって、後ろから肩を抱かれる。非常に暑苦しい。離れろ。
「出るからには勝ちたい」
不良は拳で、群れと縄張りを支配する。実物の不良には知り合いゼロだから、あくまでもイメージね。
学園生は知略で、選挙戦や体育祭で己の力を誇示する。そうやって、思春期の雄の本能を満たすんだ。
「ほら、昔よりもボラ部は落ち目でしょ。人気と人手が欲しいわけよ」
確かに、十年前の学園生の進路志望は、東大か医学部かの二択だった。高二ともなると、学年の半分がエゲツない入部動機でボラ部員だったらしい。
最近の選択肢は、海外か東大か京大か、医学部。二択から四択時代になって医者志望が減って、部員も減っているはず。
オレと理宇は将来同性婚して、伊藤姓になる予定。亡き母が遺した会社のイトウを二人で継ぐから、学歴いらず。もし現役で東大落ちしたら、浪人しないで滑り止めの早慶大に進学するかも。けど、学園生の普通の感覚だと、浪人してでも志望は四択だ。
「下水処理施設作りたいわけ。井戸掘りの時代は終わった! 国内の方も、今災害多いしな」
井上は、更に背中にもたれ掛かる。
「中間でお金抜かれないとこに、部費をジャブジャブ注ぎ込みたいわけ。だからさー」
座ってるオレと長机の間に、無理矢理その体をねじ込んでくる。
「だからね、ハラリューちょーだい」
「ヤダ」
即答。
「愛情なんぞいらん。ハラリューの才能と人望と可能性を、伊藤が縛らないでくれないか」
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