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3.伊藤 宗壱

 体育祭審判団に、理宇はゴルフ部枠で派遣されている。こっそり小さく手を振って、他のみんなと一緒に大教室を出ていく。  確かに、本当に、原理宇は優秀だ。  『在学中にイトウのための人脈作っとくわー』という目的を、軽い口調で設定。あらゆる手を尽くし、全てを楽しんでやりきる処理能力。  審判団で体育会系生徒の信奉を集め、華道部の作品を通して学園理事に顔を売る。広報委員会で各種公式SNSを管理し、言論統制を手伝ったり。第一線活躍中の卒業生と取材で仲良くなったり、他校生と繋がったり。土日はゴルフ部で、各界の重鎮OBとラウンドして。先輩と後輩の仲を調整したり、友の恋バナの相談に乗り、勉強を教え、休日は気軽に遊びに付き合う。  『ハラリュー!』『ハラリュー!』ってみんなに愛されている。  けどさ。  昼休みに植え付けられたモヤモヤのせいで、既に書記へのやる気が失せる。合同会議の後処理を、オレは最速で放棄。  明日以降に回せる業務は、明朝に仕上げればオケ! 「お先に失礼します」  井上をひとにらみして、理宇の後を追いかける。  華道部と茶道部が合同で使う畳教室に飛び込むと、彼はいない。 「理宇どこか、知ってる?」 「美術部。貸出中の花のお手入れに出張ってるよー」  来春の学園祭に、写真部と美術部と合同の展示企画をやるそうだ。その企画長も担ってる。  美術室でやっと、オレの左手は恋う人の右手を掴まえた。 「お迎え、ちょっと早かったかな?」  大きめの生花を囲むペンタブやキャンバス、スケッチブック。邪魔しないように耳元で低く囁く。  静物画と写真、大量の花の洪水で学園祭をジャックするらしい。来年度は男子校が華やかに変わりそう。理宇は美しいものに貪欲だ。 「帰るぞ」  彼の指の力強さと、凛と上がる目尻にいつになく色づく情欲に、ドキリとする。どちらが引っ張ってるかわからない状態で、二人で裏門へと急ぐ。  オレは父子家庭の一人っ子だ。移動時間を嫌う父の意向で、今は学園裏門の斜向いのマンションが我が家。引っ越す前は中学受験塾のビルの向かいに、その前は小学校の隣。本社ビルに住んでたこともある。  エレベーターを降り、焦る手を制して玄関ロックを二種類解錠、滑り込み、扉を後ろ手で閉める。理宇がオレの髪をキツく掴んで後頭部を引き寄せ、唇を奪う。二つの鞄が玄関のたたきにトン、トンと落ちた。  分厚い舌に口内が蹂躪される。舐め回され、息もつかせぬほど吸われ、互いの体液を混ぜ合わせる感覚に全身が高揚する。 「そーいち、抱いて」  オレは理宇と一つになれるなら、左でも右でも上でも下でも何だって構わない。でも理宇は、その日の欲が割とはっきりしてる。  オレのモヤモヤが、可愛い生き物を喰い尽くす獣欲にじゅるりと切り替わった。  舌を絡めあったまま、靴を何とか放る。シャツのボタンを外していく。玄関ホールに落とす。唇を離さず体を支え合いながら、ベルトに手を掛ける。廊下に点々と残る、二人分の服。  浴室の扉の前で、嫌々ながら半身を離す。最後のTシャツを首から引き抜く。 「あ、りう、トイレ使う?」 「午前からシたかったから、学校で準備してきた」  ああ、もう!  性行為に対してすら、有能な効率厨か。えろえろで、素直で、可愛すぎじゃないか。  処理能力火炎放射器は、オレの理性も焼き尽くす気か。 「最高。りうの全部、オレが洗うから」  理宇はオレのだ。

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