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第1話

サジュール王国の中心には、抜けるように深く青い大空を背景にそびえ立つ白い巨棟がある。その名も『サジュール王国軍事病院』。 高度治癒術と高度医療を合わせた巨大病院だ。 シンボルマークの赤十字を棟の高い位置に掲げたその内部では、今日も白衣の治癒専門医療兵士達が蟻のように忙しなく働いていた。 「クライル大佐、昼の配薬組んだんですけど、アーさんの胃薬無いです」 「セレスサージェント(軍曹)が薬局行くからついでに貰って来るように言え」 「大佐、イーさんの解毒まだですか」 「セレスサージェント!解毒だ解毒」 「大佐、エーさんが入浴上がります。処置お願いします」 「セレス!風呂場行って治癒!早くしないと患者が服着て患部が見えなくなるだろうがっ!」 「はいはいはいはぁーい」 全く、治癒隊クライル大佐の人使いの荒さには辟易する。さっきから同時にいくつもの用事を当て過ぎで、そのくせ文句ばかり言うのだから、治癒隊の隊員には分身の術が使える忍者を配置するべきだと思う。 だいたい俺の名前はサージェントでは無くてセレスだ。サージェントは階級で、一般企業に例えると係長くらいなもん。サージェントと呼べば返事をする人間が複数居るのに、人使いの荒いクライル大佐が呼ぶサージェントとは俺一択。悲劇だ。 ここの主要職員は軍の治癒専門魔術師で、他に補佐人員や手助けしてくれる国民が働いている。多くの職員を集中させているのは町の病院から紹介された一般の患者達も受け入れているからで、とにかく忙しい。幾ら人手があっても毎日猫の手も借りたい程に忙しい。 「失礼します」 たどり着いた浴室のドアを遠慮なくガラガラと開けると、もわっと熱気のこもった脱衣所に居る全員が一斉にこちらを振り返った。 「あぁセレス、今日も大佐の小間使いかよ。ちっこいくせによく働くなぁ」 風呂場担当の職員に声をかけられて、ちっさい言うなと決まり文句を返しておく。 俺は平均よりもちょっと小柄で痩せっぽちなだけで、周りが筋肉バカの大男揃いなだけだ。ここが筋肉で全てが許される軍隊だから悪いんだ。 「傷の具合はどうですか?」 とりあえず大佐に言われた患者が脱衣所の椅子に座って熱った身体を休めているのを見つけ、その前に膝を着いて下から微笑みかけると、たぬき腹の中年男性がにっこりと笑ってくれた。 「おかげさまで大分良いです。もう退院できるんじゃないかなと思う」 「それは良かった。ちょっと見せて下さいね」 この患者は町中で突如暴れてナイフを振り回した無差別障害事件の被害者だ。滅多刺しにされていて、町の治癒医では無理だと騎士団の治安維持部隊から転移魔法で急遽搬送されて来た。 町医者じゃ無理と言われても、ここに来れば大概は何とかなる。 「もう大丈夫ですね」 俺は滅多刺しの傷跡すら消えたたぬき腹を撫でた。 その時、脱衣所の天井に設置されてるスピーカーから緊急警報音が甲高く流れて、そこに居る全員がはっとスピーカーを振り仰ぐ。 『エリアA第二発令、エリアA第二発令。担当者は集合して下さい。繰り返します。エリアA第二発令、エリアA第二発令……』 これは……。

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