2 / 42
第2話
エリアAとは、転移魔法での急遽搬送が飛んできますという合図の言葉だ。第二とは騎士団第二部隊を示している。第二は対魔団。つまり魔物退治に赴いている騎士団が対戦で重傷を負って、救急スタッフだけでは間に合わないから応援が必要です。という意味になる。
うちの担当部署から割り当てられている応援スタッフは、俺だ。
「ちょっと出て来ます」
言うと同時に立ち上がって、転移魔法の魔法陣が敷かれているエリアAに向けて長い廊下を急ぎ足で渡った。
辿り着いた扉を開けると、それぞれ各場所に散っていた第二担当者達が部屋の中央に敷かれた転移魔法陣の周りに集まって来た所だった。
「すぐ来るぞ、早くしろ」
「対魔は何とやり合ってたんだよ」
「状況は?」
口々にみんな言うけれど、疑問の答えよりも先に魔法陣から白い光が発生した。
「来る!」
誰かの声に身構えると、すぐに魔法陣の中に黒い軍服姿の兵士達が浮かび上がった。その数ざっと二十人程で、黒の軍服が血濡れて更にどす黒く変色している者、そんな服すら無く剥き出しの肌から出血している者等、誰もが傷付いている。
「助かっ……」
安堵のために泣き出した兵士達を、すぐに魔法陣の外に運び出す。早くしないと次があるのだ、対魔団はこの倍の人数が居たはず。
案の定魔法陣はすぐに二回目の発光を始め、今度は先に来た者達よりも一見軽傷そうな騎士ばかりが転移して来た。
「軽症者十二名、重傷者二十五名の受け入れをお願いします。この後すぐに少将が……ガイ少将が来ます……お願いします!少将を助けて下さいっ!!」
嗚咽混じりに叫ばれた悲壮な声に、治癒隊メンバー全員は動きながら凍り付くという器用な事になった。
ガイ少将と言えば貴族出身の騎士でありながら、対魔団の筆頭。百戦錬磨の鬼神と噂される身分も実力も兼ね備えた超絶エリートだ。
そんな大物が、いったいどんな有様で飛んで来るのか。
「少将は俺たちを庇ってっ……」
「容態は?」
「お願いします!お願いっ!」
「落ち着いて、まず少将の容態を教えてください」
「時間が無い!来るぞっ!」
三度目の発光を始めた魔法陣の中央に、ぼんやりとシルエットが浮かんだ。対魔団の軍服は黒で統一されているのだが、浮かんだのは白。同行していた治癒隊の白衣だ。
白衣を血に染めた彼が抱える物。
それは一見大きな黒い塊のようだった。
しかし姿がはっきりして来ると、腹部で上半身と下半身が切断された人の身体を抱えているのだと分かった。
あまりの無惨な姿にそこに居た誰もが息を呑み、そして死という言葉が脳裏をよぎる。
いや、まだだ。
治癒隊員が着いているのだから、切断された瞬間に保護魔法を掛ければ身体は生きているはず。
「代わります」
俺は咄嗟に駆け寄って、少将の身体に保護魔法を掛ける。
「助かる。患者は対魔団ガイ、サトリュー少将。ドラゴンの爪に切り裂かれた」
腹部から二分されて生きてるなんて、その瞬間に魔法をかけたに違いない。
「もちろん上半身、下半身共に血液は循環させている。が……」
理を無視して回せばいいってもんでも無い。
この場合必要な治癒は、結合と人体再生。一秒でも早く修復させなければダメだ。
俺は自分の左手に人体修復の魔法陣を、白衣の胸にポケットに挿してあったボールペンで描き始めていた。
「悪い、魔力切れだ」
俺に少将の切断された身体を預けた治癒隊員は、ドサリと床に沈んだ。俺は渡される直前に描き終えた魔法陣に魔力を込める。
こんな大技やった事など無いし、もういっそ禁忌の域だ。生命に直接関与する魔法を使ってはならないという決まり事がある。
少将が既に死んでいるなら禁忌の死者甦り魔術を使ったとして罰せられ、生きているなら世紀の大魔術と称賛される究極の二択。
人体修復術を始めた俺の周囲で、他の治癒者達が固唾を飲む気配がした。
ともだちにシェアしよう!