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第42話
提出する診断書には、おっぱいの中身が魔力だと正直に書がなかった。
不明。そう書いた。
それから二日後、今は先日調査した西区の魔物討伐に、対魔団の者達と来ていた。
この前と同じキラキラした茶畑が当たり一面に広がっている、清々しい農村だ。
「俺としては、俺が乳首から吸い出して少将に渡すのがいいと思うんですけど、そもそも器の大きさに差が有り過ぎて、一気にやったら俺の方がパンパンになるから、何回もに分けて少しずつやりたいんですよね」
対魔の人達が森の中に討伐に向かっているので、俺と少将は畑でお留守番。
調査結果から、今回の討伐は野営を組んだ大掛かりな物では無く、みんなでちょっと行って狩って帰って来る程度の軽い物でいいらしい。
「それはこの前のような事を何回もするって事だろう」
「嫌ですか?一番痛くないし、安全だと思うんですけど。治癒が悩んでるのは、例えば注射器で吸引して別の場所に移植したとしても、今度は移植した部位が膨らむだけで取り込む事は難しいだろうって事でした」
報告なんかしてないから嘘だけどな。
しかし問題は、どうやって魔力が使える形で少将に戻すか。前回の乳首舐めは、戻すまでは試させて貰えなかったので、ぜひ試したい。
「治癒が提案して来る不確かな法案を試して失敗して、二度と戻らなくなるのも困るし、乳首舐めをみんなの前で観察されながらやるのも嫌だし。あ、俺は別に構いませんけど」
「観察?」
「そりゃそうでしょう、結果を見なければ判断出来ないので、治癒隊が絡めば人前でやる事になります」
そう言うとガイ少将はさも嫌そうに眉を寄せた。
「患者側にしたら恥ずかしい事でも、こっちから見れば単に仕事なんで。必要なら俺らは人前で摘便もしますよ」
摘便とは便秘の患者に下剤を飲ませて、肛門から指を突っ込み便を掻き出す事だ。
やられる方にしたらそれこそ痛みと恥ずかしさでたまったもんじゃ無いだろうけど、やる方は仕事なので何の情も持たずにさっさとやる。
「少将が決断してくれたら、今晩にでもこっそり二人で始めましょう。報告書には結果良好とでも書いて誤魔化します。嫌なら指示が下りてからみんなの前でやります。俺は変に疑われたく無いのでそっちの方が都合がいいです」
そう言うとガイ少将は絶望感を薄い頬に乗せて黙ってしまった。
別に乳首から吸い出せなんて指示は来ていないけれど、さも来ているように勘違いさせる話し方をしたのはわざとだ。
俺は舐めたい。
下心満載な提案だけど、この人は人前で恥を晒す事を絶対に良しとはしない。乗って来るはず。
だけど強引に合意させられた、では無く、自ら選んだにしないと納得しない。お高いプライドが面倒くさい。
じっと考えている横顔を見ながら、よく考えろと俺はこの話を終わりにした。
しばらくすると魔物討伐に向かっていた対魔団が戻って来て少将の前にひざまづいた。
「報告します。魔物の討伐は完了しましたが、森の奥に『穴』を発見し、現在隊の者が隔離を行なっています」
『穴』とは魔界と通じる空間の歪みの事で、そこから魔物がこちらの世界に出現するのだ。
こんな平和地帯に魔物が現れるのはその可能性が考えられて、発見した場合の対応は既に話し合われていた。
全て予定調和の討伐だ。
「怪我人は?」
「三名ほど。こちらに向かっている所です」
今回対魔団に付き添った治癒隊員は俺一人。放っておいてもガイ少将にくっ付いた俺が出向く事になるので、他の治癒隊員は割り振られなかった。
やがて森から足を引きずった対魔団員と付き添いの者が出て来て、大した怪我では無かったけれど、三人共元の状態に治しておく。
「簡単だな。魔法陣を出すとか呪文を唱えるとかしないのか?」
触れるだけで治癒させた俺を見て、少将は目を見張った。
「まぁこんなもんです。大佐なら視線一つで治したいかも知れませんが、俺程度じゃ触った方が確実です」
「お前わりと優秀だろう?」
「だと嬉しいですけど、治癒隊は治癒特化だから珍しくは無いですよ」
笑っておいたけど、ガイ少将は何か考えているように俺をじっと見て、やがて悩みを吹っ切ったように言った。
「分かった、セレスが提案する魔力の吸引方法を、今夜から始めよう」
なんと!
それは思ったより優秀だった俺を見て、信じたって事だろうか。
魔物討伐のお付き合いなんて本当は嫌だったけど、来て良かった!
今夜からガイ少将を納得の上喘がせる承認を得た。生真面目な人を陥れるのは簡単で、だから少将は病欠中なのに仕事ばっかやってんだなだと思った。退職願が受理されないばっかりに、討伐にまで付き合って……。
正直者は気の毒ね。
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