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第1話 御祓

1ー1 御祓 俺の朝は、御祓から始まる。 2月の小雪の舞う早朝の山道を、俺は、じいちゃんと2人歩いていく。 俺は、白い衣に身を包んでいるだけで、裸足でうっすらと雪の積もった細い山道を歩いていた。 足には、もう感覚がなくなってきていた。 毎日やっているとはいえ、慣れるものでもない。 俺の家は、古い神社の神主の家系で、家の長男は、必ず、これを毎日続けられさせられるという運命だった。 俺の親父は、入婿だったので、俺が10才になるまでは、70を越えたじいちゃんがやっていたらしい。 だが、本来、これは、十代の男の役割だとかいうことで、俺が10才になると俺の役目になった。 「こんなの、もう、時代遅れだし。いい加減、やめようぜ」 俺は、白い息を凍えた手に吹き掛けながらじいちゃんに訴えた。 「ばかもんが!」 じいちゃんは、俺を一括した。 「まだ、わかってないのか?この尾上神社はな」 じいちゃんは、俺を御祓を行う滝壺の前の地面に正座させると説教を始めた。 いつものことだ。 だが、この日は、特に寒くって、俺は、体を小刻みに震わせながらじいちゃんの話を聞き流していた。 じいちゃんの話す神社の成り立ちの話なら、ガキの頃から耳にタコができるほど聞かされていた。 なんでも、その昔、飢饉で村が全滅しかけた時にどこからか金色の狼が姿を表したのだという。 狼は、村人に多くの穀物や、獣の肉をもたらした。 そのかわりに、その狼は、村の若者を1人連れ去ったのだという。 以来、数百年に1度、尾上神社の神様は、村から清い体の若い男を1人連れ去るのだという。 つまり、処女童貞ってことな。 普通は、女の子じゃねぇの? なんで、男なんだよ! しかも、この言い伝えのせいで、俺は、17にもなって、彼女の1人も作れやしねぇし! じいちゃんの言うことには、もし、掟をやぶったりしたら、大変なことになるのだという。 なんでも、ゴジラ並みの怪獣が攻めてくるとか。 あり得ねぇ! ちょっとおつむがあればそんなこと誰にだってわかるってもんなのに、この辺りの連中と来たら、絶対的に信じ込んでやがる。 というわけで、この辺りの町や村では、俺のことをみんなで彼女やなんかができねぇようにって、見守ってやがる。 そんな心配しなくったって、俺の体が汚されることなんてねぇって! なにしろ、この村には、若い女なんていねぇし。 一番若い女は、村外れの内田の家の後家さんだし。 その後家さんでも、もう40を越えてるし。 しかも、俺の進学した高校は、この辺りでも有名なヤンキーが多い男子校だし。 そのうえ、俺は、じいちゃん譲りの三白眼で決して、不細工ではない筈なのに「怖い」とか恐れられてて、つまり、近づいてくるのは、野郎ばっかっていう訳だった。

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