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第51話 温もり
5ー7 温もり
「は、離せ!」
俺は、ルイスから逃れようとしたが、ルイスは、がっしりと俺を抱き締めて離さなかった。
「じっとしていろ、レンタロウ」
ルイスは、低いよく響く声で囁いた。
「すぐに暖めてやる」
ルイスは、俺を抱いたまま生活魔法で俺の濡れた体を乾かすと、暖めてくれた。
俺は、泣いているところをルイスに見られたくなくってうつ向いた。
「なんで・・俺のこと、助けるんだよ?」
「 決まってるだろう、レンタロウ」
ルイスは、ぎゅっと俺を強く抱いて言った。
「俺は、冷えきった体で泣いてる奴をほっとけるような男じゃないんでね」
「る・・いす・・」
俺は、ルイスの腕の中で声を殺して泣いていた。
ルイスは、俺が泣き止むまで優しく俺の背をさすってくれていた。
俺は、泣きながら、ルイスの優しい温もりに抱かれて眠ってしまっていた。
遠くに雨音と雷鳴が聞こえていた。
ルイスは、濡れた雄猫のような男らしい匂いがしていたのを微かに覚えている。
それは、俺を落ち着かせていった。
優しい香り、だった。
次に気がついたときには、俺は、いつもの自分のベッドに横たわっていた。
「レン様」
イーサンが俺の手を握り締めてくれていた。
「イーサン?」
「申し訳がありませんでした、レン様」
イーサンは、思い詰めた様な青ざめた表情をしていた。
「あなたのことを危険にさらしてしまいました」
「イーサン」
俺は、弱々しく微笑んだ。
「大丈夫だ。俺は」
「しかし」
俺は、イーサンを制した。
「大丈夫、だ。これぐらいで、俺は、まいっちまうような柔な人間じゃねぇし」
「レン様」
イーサンが俺の頬にそっと触れてきた。
最初は、こわごわと。
そっと、優しく、イーサンは、俺に触れた。
「あなたにもしものことがあれば、私は、あの場にいた全ての連中を殺していました」
「おいおい」
俺は、笑った。
「無茶苦茶だな。お前は、俺の警護の仕事もあるだろうけど、同時に、アメリのことも守らなきゃいけないんだぞ」
「わかっています。それでも、私は、あの連中を許せない」
イーサンが俺の唇に指で触れた。
俺は、イーサンの触れる指の感触に目を閉じて、彼を感じていた。
真面目で、お堅い、俺の騎士。
「レン・・様・・」
イーサンが俺の唇に自分の唇を重ねてきた。
俺は。
イーサンの口づけを拒まなかった。
ただ。
寒かった。
俺は、凍えるような寒さに、イーサンの温もりを求めた。
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