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第109話 海
10ー5 海
俺は、馬車の中でたぶん向かい合って座っていると思われるその男の方へと手を伸ばした。
誰、なんだ?
だが、男は、俺の手を止めるとそこに柔らかく口づけした。
「ぅんっ・・」
思わず声が出た。
そいつは、低く笑い声をたてると、俺に向かって声を発した。
「しっかり腰かけてろ、レンタロウ。座面から落ちたらケガするぞ」
俺は、馬車の座面の背もたれにもたれて、耳をすませた。
馬車は、しばらくはなだらかな道を軽快に走っていたが、しばらくすると酷く揺れ始めた。
俺は、気分が悪くなっていた。
吐きそうだ。
「大丈夫か?レンタロウ」
男は、俺に声をかけると、俺にキスしてきた。
んんっ?
口の中へと冷たい水が注ぎ込まれる。
俺は、ごくごくっと喉をならして水を飲み込んだ。
そいつは、俺に口移しで水となにやら錠剤を飲ませた。
「な、に?」
「大丈夫だ。酔い止めの薬を飲ませただけだ」
それっきり男は、黙り込んでしまい、俺は、いつしか眠り込んでいた。
「んっ・・」
俺は、ゆっくりと目覚めていった。
アメリ?
俺は、寝ぼけてアメリの温もりを求めて手を伸ばしたけれど、それはどこにもなかった。
俺が目を開くと、そこは、見知らぬ場所だった。
ここ、どこ?
俺は、起き上がるとはっと体を見下ろした。
俺、裸で誘拐されたんだった?
だが、俺は、見たことのない紋様が織り込まれた青い夜着を着せられていた。
誰が、これ、着せてくれたの?
俺は、辺りを見回した。
部屋の中には、俺の寝ているベッドの他には、小さなテーブルと椅子が何脚かあるだけだった。
ここ、どこなんだ?
俺は、ベッドから降りるとドアへと向かった。
その木製の大きなドアには、鍵はかけられてはいなくて、俺は、扉を開くと外へと顔を出してきょろきょろと左右を見た。
外は、薄暗い通路になっていて、人影はなかった。
俺は、そっと外に出ると光のさす方へと歩いていった。
そこには、上へと続く階段があった。
俺は、迷わず階段を上っていった。
光さす青い空が見える。
微かに潮の香りがする。
ここは、海の近くなのか?
俺は、階段の上にある扉を開けて外へと出た。
そこは、どうやら海の上のようだった。
船の上?
俺は、どこまでも広がる青い澄んだ海に、思わず、目を奪われた。
甲板の上をよろつきながら歩いて船の舳先へと向かっていく。
爽やかな海風に吹かれて、俺は、目を閉じた。
この世界に来て初めての海だった。
ああ。
海は、まるでもとの世界と同じだな。
と、俺が思っていると、遠くから雄叫びのようなものが聞こえてきた。
俺がそっちを見ると、海面を巨大なドラゴンのような生き物が泳いでいるのが見えた。
うん。
間違いなく、ここは、異世界だな。
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