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52.甘えてみる

「長様ー! その前に獲物を見せなくては~!」  長はカヤテの言にはっとしたようで、口づけが解かれてしまった。僕は思わずカヤテを睨んでしまう。 「ああー! 天使さまに睨まれた~!」  カヤテが大げさによよよと悲しがる。僕は慌ててしまった。そんなつもりはなかった。 「カ、カヤテ……あの……」 「気にするな」  そう言って長が僕をシーツにくるんで抱き上げた。そのまま寝室を出た。 「もしかして朝食もまだか?」 「あ、はい……」  朝飯を食べる前に長に嫉妬を向けられたのだった。長はバツが悪そうな顔をした。 「獲物を見せてやる。それから……もう昼もだいぶ過ぎたな。飯を食べろ」 「はい……」  長の腕の中に収まっていることが嬉しくて、僕は長の胸に顔をすり寄せた。 「っ! あんまりかわいいことするんじゃねえ……」 「?」  すりすりするの、だめなのかな? ちょっと寂しいけどせっかくだっこしてもらってるんだから我慢しなくちゃ。 「っ、走るぞっ!」 「はい」  長にぎゅっとしがみついた。そんなに遠いところに獲物が置いてあるのかなと思ったけど、そうでもなかった。それよりも長が狩ってきたという獲物の量を見て僕は目を丸くした。  魔物がいっぱいである。  どれも食べられたり、素材が取れたりする魔物だということはわかるのだけど、数えきれないぐらいあった。 「こ、こんなに……」 「食いきれねえ分は干し肉に加工させてっから大丈夫だ。いっぱい食べて血を補わねえとな」 「は、はい……」  獲物を置く場所らしいのだけど、長が狩ってきたという獲物が一番多くて、誇張ではなく山になっていた。 「あの……」 「なんだ?」 「いつもこんなにまとめて狩るんですか?」 「いや? 今回は……お前への詫びも兼ねてだ。悪かった……」  顔を下げてすまなさそうな目をしている長にどきどきした。 「だ、大丈夫、ですから……」 「いや、だめだろう。お前は天使なんだから、これ以上ないってぐらい大事にしないといけねえんだ。それを……」  ぐ~、きゅるるる~……  そういえば、今日はまだごはんを食べていなかった。おなかが盛大な音を立てて、カーッと顔が熱くなった。 「……まだだったな」  僕はあまりの恥ずかしさに、長の胸に顔を伏せた。  おなかの音聞かれちゃったけど、呆れられたりしてないかな? 「捕まっていろ。戻るぞ」 「……はい」  そうして寝室に戻ると、昼食兼おやつの用意がされていた。長は昼食も軽く食べたようだけど、僕に付き合って一緒に食べてくれた。それがとても嬉しかった。 「本当にそんな量でいいのか?」 「はい、もうおなかいっぱいです」  僕が食べる量は普通だと思うのだけど、鬼たちは身体の維持も含めてなのかたくさん食べるから、僕がとても小食に見えるようだった。リンドルに窘められてようやく長は引き下がってくれた。  食休み中も僕は長にぴっとりくっついていた。もう今日は離れたくなかった。 「……そんなに俺が好きなのか?」 「好き、です……すごく、好き……」  なんでかなんてわからないけど、好きなものは好きなんだからしょうがない。 「こら……すぐに抱きたくなっちまうだろ?」  長に布団に優しく横たえられた。 「ゴホンッ! 食休みはしっかりしないといけませんよ」  リンドルがわざとらしい咳払いをして注意する。それに顔を見合わせて笑った。そして長は自分の言い聞かせるようにいった。 「っはー……我慢だ我慢……もう少しだ……」  そんな長がすごく愛しくて困ってしまう。 「あー、ところで……」 「はい?」 「他の天使候補がいるっつってただろ? ソイツはそんなに嫌がってるのか?」 「僕がいた時は、すごく嫌がってたんですけど……」  僕はちら、とリンドルを見た。 「おそらく……ウイ様と違って素直ではない者かと思われます。ですので少し調教が必要になるかもしれませんが、天使としてここに来るのならばすぐに素直になるでしょう」 「んんー? それって素直になれない意地っ張りな子ってことかな~? 楽しみですね~。私、そういう意地っ張りな子ぐちゃぐちゃのどろどろに犯したいですー!」  笑顔でカヤテが不穏なことを言った。 「そ、それは……」  ちょっと遠慮してほしいと思う。一応僕の知り合いだし。 「……手加減はしてやれ」 「あれ? 長はヤらないんですか?」 「嫁がいる。俺には必要ない」  そう言って長は僕を抱きしめた。嬉しくてはうはうしてしまう。 「いつ頃こちらに来させられるんです?」  カヤテがリンドルに聞いた。 「ただ愛撫をする為であればすぐにでも、という話です。ただ天使になるのは約三か月後ですから、その間に誰かが無理矢理して壊してしまったら困りますので、やはりぎりぎりに来させるのがいいのではないかとウイ様と話していました」 「そうですね。確かにどんなバカ者がいないとも限りませんからね。ぎりぎりの方がいいでしょう。それまでは、天使さまをたっぷり愛撫させていただきたいですね~」 「俺も嫁を愛でてえんだ。ちったあ遠慮しろ」 「えええ~~~」  そろそろ食休みの時間が終りそうだ。終ったら長にいっぱい抱いてもらいたいと思った。

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