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第3話

 俺たちの仕事は時に危険が伴うこともある。その時にこいつを事故に見せかけて殺そうと思ったことが何回あったか。多分それは向こうも同じで、陰陽師としてかつてあの安倍晴明が使役していた十二天将を使役できる俺が気に入らないのだろう。  後部座席の神川先生は目を閉じている。すっと通った鼻梁、薄い唇。左目は完全に髪の毛で隠れている。神川先生をバックミラー越しに見て俺はため息をついた。初めて神川先生を見た時、その涼しげな容貌に当時十二歳だった俺は恋をした。それは神川先生が見た目から想像される性格とは異なり、大雑把なところがあるオヤジだと知った今も続いている。つまり俺の初恋なのだ。 「もうすぐつきますよ、神川先生」  九条が後部座席へ向かって話す。まずその情報は運転している俺に言ってもらえると有り難い。 「おーよく寝たよく寝た。もう着くの?」  煙草に火をつけながら先生が言う。この三人は昨今のご時世に反して全員喫煙者だ。というか俺も九条も神川先生に憧れていたので自然とそうなった。タバコの銘柄も全員同じだ。

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