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第30話

『継体天皇の御世に 箭括氏の麻多智という人があった。郡の役所から西の方の谷の芦原を測定し、そこを開墾して新しく田を作った。その時夜刀(谷)の神が、同類を引き連れて群れをなしてやって来て、いろいろと妨害して田を作らせなかった。(土地の人は蛇のことを夜刀の神という。その姿は蛇の体で頭に角がある。連れ立って蛇の難から逃れようとする時、後を振り返って蛇を見たものがあると、その家門は滅び、子孫は断絶してしまう。大体、郡役所付近の野原にたくさん棲息している。)それで麻多智はひどく怒って、甲鎧を着、仗を手に持ち打殺し打殺しして追い払った。そうして山の登り口まで行って、境界の堀に、ここから入ってきてはいけないという標の仗を立てて、夜刀の神に、「ここから上は神の領地とすることを許そう。しかしここから下は人が田を作る。今から後、自分は神の祭祀者となって、永久にお前を敬い祭ろうから、どうか祟らず、また恨むな。」と告げて社を作って初めて祭った。そして引き返して来て、田を十町余り開墾した。麻多智の子孫は次々に受け継いで夜刀の神の祭をし、今日まで絶えることがない。』 とある。

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