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第93話

 九条は俺の顔色が明らかに変わったのを見て緊張の面持ちで電話に近づいてきた。俺は受話器を押さえ「島根のA家の例の箱が盗まれたらしい」と言って電話をスピーカーホンに切り替えた。 「私どもの家では母家と離れた蔵に例の箱を保管し、家のものには決して近づかぬよう言い渡しております。そして当主である私が毎晩例の箱の保管状態を確認してから眠るようにしております。  昨晩、例の箱の所在を確認した結果、普段置いてある蔵の一番奥にありませんでした。家のものが間違って移動させたのかと思い、聞いてみましたが知らぬとのことで、一晩中蔵をひっくり返して探してみましたが見つかりませんでした。  例の神社と地元の警察も例の箱のことは存じておりますので、一報を入れましたが、見つからないとのことで、お電話した次第です。  現在もう一つの箱を管理しているK家にもこのことを伝え、厳重に警戒してもらっております。  そこで持ち出された例の箱……「コトリバコ」を探し出していただきたいのです」

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