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Chapter2... 青い空の下で  どうやら春とは名ばかりの肌寒さは夕方以降だけのようで、日中の日だまりはさすがに暖かい。窓際の一番後ろの席であくびを噛み殺していたら、すかさずチョークが飛んできた。 「そこの女子。あくびしない」  担当教師の笑えないギャグに、教室のあちこちからぷっと吹き出す音や冷やかしの声が聞こえてくる。どうやら笑えないのは俺だけのようで、 「あーい」  俺はそんなふざけた生返事をして、机の上に突っ伏してうなだれた。  あろうことか高橋たちが提示してきた罰ゲームというのが一日、前髪をちょんまげに結んでおくというもので、前髪を結ぶヘアゴムは高橋が妹のものを借りてきた。  それは真っ赤な玉二つを交差させてとめる大阪を舞台にした昭和の漫画の主人公、ホルモン少女の髪留めと同じもので、この罰ゲームには持って来いのものだ。  無駄に長い前髪が災いして、それはチャラさを際立たせた。こうなると、高校に入学してから何百回と思ってきた『こんなはずじゃなかったのに』を噛み殺してにへら笑うしかない。  三年生に進級して、一学期の始業式を終え。入学式やら新入生歓迎会やらのイベントも終えて、通常の授業が始まった。  大学に進学するか、社会に出るか、最初の将来の選択の時を迎えるも正直、まだ何も決まってはいない。そんな苛立ちをどこにも向けるでもなく、誰もが惰性で机に向かっている。  高校入学時には、既にしくじってしまっていた進路。その先がどうしても見えなくて、今の俺には将来の展望は全く見えて来ない。残された高校生活、最後のこの年に、何かを見つけられたらいいんだけど。  退屈な授業。退屈な毎日。そんな中、何かを見つける(すべ)さえ見つからない。  本当ならば今頃、がっつりバンドの練習に明け暮れているはずだった。憧れの軽音楽部の部室に入り浸って、音楽漬けの毎日を送って。  退屈だなんて思う暇もないくらい充実した毎日を送っているはずだった。現実と理想のジレンマに苛まれるも、今の俺にはどうすることもできない。  退屈な授業が終わった休み時間、 「柴田、似合ってんじゃん」 「うっせ」  クラスメートでもある高橋がそんなことを言って、からかって来る。顔ではヘラヘラ笑って見せるも心の中は、どんよりと曇っている。いつもなら、そのまま昼休みも高橋たちと教室や学食で過ごすんだけど。  昼休み。なんとなく一人になりたかった俺は、俺にとっては未踏の地である屋上へと足を運んだ。

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