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 これってさ。高橋が萌衣を思う気持ちと同じじゃね?  いや、さ。慧のことを大事にしたいとかそう言うんじゃないけど。 「あれから萌衣ちゃんとは会ってないし、ちょっと距離を置いてみたほうがいいんかな」  大事にしたいだとかされたいじゃなくて、慧のそばにいたいというか。慧とともにありたいと思う。 「今までずっと追い掛けてたから、押してダメなら引いてみろっつかさ」  それはバンドのメンバーの一員としてじゃなく、その証拠に朗さんはそんな感じじゃない。朗さんともずっと一緒にバンドをやって行きたいとは思うけど、朗さんのそばにずっといたいという気持ちはなかった。  つまりは俺にとって、慧は特別な存在に(ほか)ならなくて。それってつまり……、 「柴田。聞いてる?」 「うわっ!」  あれこれ考えていたらいきなり高橋に肩を掴まれ、思わず大袈裟に反応してしまった。 「な、なんなんだよ。びっくりさせんなよ。つか柴田、おまえ顔真っ赤だぞ」  高橋がそう言い切らないうちにタイミングよく予鈴が鳴る。高橋はまだ、ぶつくさ言いながら自分の席に戻って行った。予鈴が鳴って程なくして、本鈴前に担任が教室にやって来る。 「おらー、席に着けー」  簡単な連絡事項を聞いたあと、すぐに一時限目の授業が始まった。  つか、俺。そんなに真っ赤な顔をしてるんかな。ぱっと見で真っ赤だってわかるぐらいに。  SSRの初ライブを明日に控え、少々浮足立っているのかも知れない。だから本当はライブのことに集中しなくちゃいけないのに、俺の頭の中は慧のことでいっぱいだ。  なんて言うか……、あ。これ俺の口癖だ。仕切り直してなんと言うか、日ごとに慧の存在が大きくなっている。 「今日は23ページからな」  これって、もしかしてそうなんだろうか。いや、有り得んだろ。慧も俺も男だし。頭ん中でそんなことを考えては、頬が熱くなるのが分かった。 (どうしよ、俺。もしかして……)  慧に恋してる?  てか……、 「こ、恋?!」  思わず奇声を上げながら席を立つ。 「……あん?」  ……しまった。いま授業中だった。担任の元ヤン教師が俺のことを睨んでくる。 「こ、来いやバカヤロー!」  咄嗟に某プロレスラーの物まねをしてごまかしたけど、余計に大目玉を喰らってしまったことは言うまでもない。  柴田弓弦、もうすぐ18歳。  初ライブ前日のこの日、慧への特別な思いを自覚した。

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