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「恋わずらい……」
「ん?」
本当にそうなんだろうか。自分のことなのに、その辺のことはよく分からない。かと言って今までは先生にはなんでも相談に乗ってもらって来たけど、さすがに今回だけは相談できそうになかった。
「なんだ。独り言か」
好きな子ができた。けど、それは自分と同じ男だ。おまけにその好きは、単なる恋愛の惚れた腫れたで済まされるほど単純なものじゃないらしい。
恋人として付き合いたいだとかのレベルでもなく、とにかく慧とずっと一緒にいたいのだ。告白に失敗してそばにいられなくなるぐらいなら、一生ただの友達でもいいから近くにいたい。そう思えるぐらいに好きだった。
耳を澄ませば、時計の針の音がやけに大きく聞こえてくる。他にも先生が何かを書いてるであろう、ペンが紙を引っ掻く音がする。
普段は聞き慣れないその音に、自分が呼吸する音と心臓の音が重なった。思わず息を詰め、閉じていた目を開けて天井を眺める。
天井に少し煤 けた箇所とシミがある以外は、真っ白な世界。この白い世界にいるのは、落ち着くような落ち着かないような不思議な感覚だ。
もう何も知らなかった無垢な子供だったあの頃には戻れない。とうとう俺はスタートラインに立ってしまった。でもそれは、SSRの、バンドのそれだけではないような気がして。
そんなことをいろいろ考えていたからか、結局眠れないまま、
「お邪魔しました」
「はいはい。いつでもおいで」
次の授業を受けるために、俺は教室に向かった。
結局、いくら考えてみてもこの気持ちは恋心に外ならないような気がする。多分、認めなくちゃいけない時が来たんだと思う。
俺は慧が好きなんだ。単なる友達として、一緒にバンドを組んでるメンバーとしてじゃなく、恋愛の対象として慧のことが。
以降の授業もずっとこんな調子で、何も頭に入らないまま放課後を迎えてしまった。鞄に荷物を詰め、早々に帰路に着く。
降り出した雨は、もうやんでいた。頭上を覆っていた重苦しい雲も遠ざかり、代わりに空一面に薄いベールを広げたような雲の切れ間から、青空が覗いている。
時刻は、まだ夕刻と呼ぶには早い午後4時を少し過ぎたとこで、途中、今年初めて感じる汗ばむ陽気に上着を脱いで先を急ぐ。
「よ」
校門を出て少し行ったところで、軽く肩を叩いて呼び止められた。
「……え、あっ」
振り返れば相手は慧で。
「行こ」
「あ、待って」
慧はいつもその日のうちに予習と復習、課題を終わらせてから下校している。だからいつも下校時間は俺よりも遅くなるのに、今日はもう終わらせたんだろうか。
それより何より、バンド仕様じゃない格好で二人並んで歩くのも初めてのことだ。金髪に近い茶髪のチャラ男と真面目な優等生との珍しい組み合わせに、下校途中のうちの学校の生徒、皆が振り返る。
途中、何を話していいのかが分からなくて、俺たちは家に着くまで一言も喋らなかった。
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