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「はあ……」
頬を撫でる風は暖かで、ここに来てようやく春らしさを感じた。今年は梅雨前線が北海道付近まで迫っているようで、あいにくの曇天模様の空にも関わらず、俺の心は充実感で満たされていた。
「かっこよかったな、K」
自分も同じステージに立っていたことが信じられない。ドロップ・アウトに自分が加わることで作り上げたSSRの初ライブは、有り難いことに絵に描いたような大成功をおさめた。初ライブが終わったのは翌日の今日、俺は自分の中で本当のスタートラインに立てたような気がしていた。
「慧……、遅いな」
いつもの昼休み。屋上のフェンスにもたれて慧を待つ。まだ少し手が痺れているように感じるこの感覚も、初ライブの余韻だと考えてもいいんだろうか。
初ライブを終え、新たなスタートラインに立った今、いろんなことが見えてきた。一番、明確になったのは俺の慧に対する気持ちだろうか。
『最高……』
最後のアンコールを終えた瞬間、バンドマン仕様のKがそう呟いた。その笑顔を見て自覚した。
俺、K……、もとい。慧が好きだ。
「ごめん! 遅くなった!」
「!!」
そこへようやく慧の登場。映画のワンシーンのように、屋上へと続くドアを蹴破る勢いで開けた慧が、肩で息をしながらいつもの笑顔を向けてくる。
「あ……、やっ、全然遅くない……っ!」
うわっ、なんかなまらはずい!
慧への想いを自覚したばっかだから。
「そうか……? って言うかもう昼休み終わるし」
そう言って腕時計を覗き込む慧は、そんな俺の気持ちを知らない。
昼休みが終わるまで、あと5分にまで迫っていた。どうやら慧は先に課題を終わらせて来たらしく、雲の切れ間から覗く空に目を細めた。
徐々に明るくなって行く空は、晴天を予感させる。
言わなきゃ。慧が好きだって。
今を逃したら、一生言えない気がする。
幸い、初ライブの余韻でまだテンションも高めだ。
「慧、俺……っっ」
俺が勇気を出して絞り出したその一言に、
「弓弦、付き合って」
慧のそんな一言が重なった。
「え……?」
「いや?」
瞬間、心臓が止まってしまったような気がした――。
【第2話】スタートライン/完結
ありがとうございました。
第3話へ続きます。
2015/05/12
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